インクルーシブの手引き 〜すべての人が自分らしく生きられるインクルーシブなまちづくり条例 逐条解説書〜 2022年4月発行 明石市政策局ジェンダー平等推進室 目次 前文 第1章 総則(第1条から第7条) 第2章 基本方針(第8条から第11条) 第3章 インクルーシブ社会の実現に向けた基本的な施策(第12条から第20条) 前文                                        人は多様であり、誰一人として同じ人間はいません。そして、一人ひとりの個性が尊重され、誰もが差別されず、自由を制限されることなく暮らす権利を持っています。この考え方は、児童の権利に関する条約や障害者の権利に関する条約など国際的な人権条約でも保障されていて、世界共通の目標であるSDGsの中でも人権の尊重を土台として、「誰一人取り残さないインクルーシブな社会」を目指していくことが掲げられています。 明石市は、こうした国際規範を踏まえ、多様な市民の声を聴き、コミュニケーションを重ねてそのニーズを施策に反映させることを模索しながら、みんながありのままで安心して暮らせるまちを目指して、様々なまちづくりの取組を推進してきました。 そのような中、2020年の新型コロナウイルス感染症の感染拡大に端を発した社会の変化は、障害者や高齢者、生活困窮者など生活上の制限を受けている人はもとより、多くの市民に様々な制限を強いる状況をつくり出しただけでなく、ウイルス感染をめぐる新たな差別や排除、分断や孤立を生み出すこととなりました。他方で、「これまであたりまえにできていたことができなくなる」といった生活上の制限を多くの人が感じざるを得ない状況に至ったことは、誰もが制限されることなく安心して暮らせるまちの必要性を、市民一人ひとりが実感する大きなきっかけとなりました。 今こそ、生きづらさを感じている多様な人たちがまちづくりに参加し、その視点や経験を活かして市民一人ひとりが感じている制限を取り払う方法を模索しながら、誰一人取り残さないインクルーシブな社会の実現を目指していくべきです。 ここに私たちは、明石市の「やさしいまちづくり」の考え方に沿った「インクルーシブ」という世界共通の理念を共有し、今後生じる差別も含め「いかなる差別も許さない」という決意を示すとともに、市民一人ひとりの尊厳と多様性が大切にされ、誰もが自由を制限されることのないまちづくりをみんなで進めていくために、この条例を制定します。    第1章 総則 目的                                        第1条 この条例は、すべての市民が異なる価値観を認め合い、市民一人ひとりの多様性が尊重されることで、誰もが持てる力を発揮できるインクルーシブなまちをつくるために必要な事項を定めることにより、すべての市民が大切にされ、誰一人取り残されることのないインクルーシブ社会を実現することを目的とする。 誰もが持てる力を発揮するためには、それぞれが持っている個性をありのまま周りが受け入れることが何よりも大切です。「これができない=何もできない」ではなく「これができない=これならできる」のように、「できること」と「できないこと」の両方を当然として受け入れることが求められます。できることもあればできないこともあるのは、障害者など特に支援が必要な人たちだけではなく、すべての人に共通することです。 「受け入れる」ためには、人は一人として同じではないという認識を持ち、それぞれの多様性が尊重され、異なる価値観を認め合うことが大切です。 そして、多様性が尊重され、個性を潰すのではなく、お互いに伸ばし合っていくことができれば、多様な才能があふれる社会になるはずです。 この条例では、これらのことを大切なものと考え、この条例が支援を必要とする特定の人たちだけのものではないことを、この条で示しています。そして、この条例を市、事業者を含むすべての市民が「自分ごと」として考え、多様性を理解し、誰一人取り残されることのないインクルーシブ社会の実現をめざす市の指針とします。 定義                                        第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。 (1) インクルーシブ社会 多様性が尊重され、障害の有無及び程度、年齢、性別、国籍等によって、差別され、排除され、取り残され、又は社会の一員として分け隔てられることなく、誰もが地域で安心して楽しみながら生活することができる社会をいう。 一般的に「包摂」「共生」などと訳されることが多い「インクルーシブ」という言葉ですが、明石市における「インクルーシブ」の考え方を明確にしています。また、障害者が施設に隔離されていた歴史を踏まえ、障害者権利条約に謳われている「地域社会で生活する平等の権利」の要素を加えるとともに、誰もが障害等を理由に楽しみをあきらめることがないよう、「楽しみながら生活することができる」という表現を加えた定義としています。 また、コロナ禍での様々な差別の例を踏まえ、「差別」や「排除」を明確に否定しています。 (2) ユニバーサルデザインのまちづくり 障害の社会モデル(障害は機能障害と周囲の様々な障壁との相互作用によって生じるとする考え方をいう。)を踏まえ、障害の有無及び程度、年齢、性別、国籍等にかかわらず、誰もが自由に移動でき、安全かつ快適な生活を営むことができるまちにすることをいう。 例えば階段しかない2階建ての建物において、車いすユーザーは自力で2階に上がれませんが、エレベーターがあれば上がることができます。このように機能障害(この場合足が不自由なこと)だけでなく、周囲に様々な障壁(この場合エレベーターがないこと)があることとの相互作用をもって「障害」とする考え方が「障害の社会モデル」です。 そして、この考え方を踏まえた環境整備を進めていくことが、ユニバーサルデザインのまちづくりです。 特に条例上では、市民だけでなく観光客等を含むすべての人を主体として、「自由な移動」及び「安全かつ快適な生活(働くことも含みます。)」を確保することを大きな2つのポイントとしています。 (3) 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)、難治性疾患その他の心身の機能の障害がある者であって、障害及び社会的障壁(日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。以下同じ。)により、継続的又は断続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。 明石市障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮らせる共生のまちづくり条例(障害者配慮条例)と同じ定義であり、明石市としての障害者の考え方を統一しています。 法令に定める定義に、「難治性疾患」と「断続的に」という表現を加えています。 (4) 障害者等 障害者をはじめ、日常生活又は社会生活の様々な場面において支援を必要とする状態にある者をいう。 すべての人を対象とするこの条例の中で、主に支援の対象となる者を指しています。 条文上は障害者を例示していますが、他にも障害者の家族、高齢者、外国人や乳幼児の親、社会的養護を必要とする子ども、非正規雇用者など様々な人たちが考えられます。 また、人は様々な要因によりその状態が変化するものであり、支援を必要とする場面、必要としない場面があります。健常者であっても、怪我などで一時的に支援が必要となることもありますし、また災害などで一時的に生活が立ち行かなくなることもあります。 そのことを踏まえて、この条例では、特定の属性を有する人だけではなく、誰もが支援を必要とするということを前提として、その「状態」に着目した定義としています。 「障害者等」と障害者を例示しているのは、明石市が障害者施策を通じて「だれもが暮らしやすいまちづくり」を進めてきた経緯があることや、優生保護法における優生思想の法制化により、障害者関連の法律や制度に悪影響を生じさせ、おびただしい数の障害者が苦しんできた歴史的な背景からも、特に障害者への支援が重要であることを示すためです。 (5) 市民 市内に居住し、又は通勤し、若しくは通学する者をいう。 (6) 事業者 市内において事業活動を行う者又は団体をいう。 明石市の他の条例の定義と同じ内容としています。必ずしも住民票を置いている人に限らず、仕事や学校などで明石市との関わりが大きい人たち、市内で事業を営んでいる人たちにも、この条例の理念を理解していただき、また支援が必要な場合は支援されることが必要であると考えています。 基本理念                                      ◆基本理念の考え方◆ 基本理念においては、この条例の根幹となる重要な内容について、項ごとにそれぞれ異なるテーマで規定しています。 具体的には、まず第1項で「支援が必要な者が支援を受けられること」を基本としたうえで、第2項では「社会における当事者の必要性」、第3項では「セーフティネットとしてのインクルーシブ理念の必要性」、そして第4項では「すべての人をありのままで尊重することの必要性」について規定しています。 第3条 インクルーシブ社会は、障害者等が、他の者との平等を基礎として、意思の形成又は表明に係る支援その他の必要とする支援を受けられることを基本として実現されなければならない。 必要な支援を受けることができないために日常生活や社会生活の様々な場面で排除され、取り残されている者が、必要な支援を受けられるということが、「誰も排除せず、取り残さない。」という条例の考え方であることを示します。 また、本人が意思を形成し、表明することができなければ、本人にとっての必要な支援を行うことが困難です。このことから、この項においては、支援を行う際の根幹となる意思形成支援・意思表明支援の必要性を特に明示しています。 「他の者との平等を基礎として」とは、2014年1月に日本が批准した障害者権利条約において、繰り返し規定されているフレーズであり、この項では支援を受けられることが特別な権利や新しい権利ではなく、他の市民と等しく社会に参加するために必要な当然の権利であることを示しています。 2 インクルーシブ社会は、障害者等が支援される存在としてのみ捉えられるのではなく、その自己決定権が尊重され、その参画が社会全体によい効果を生み出すために必要であると理解されることを基本として実現されなければならない。 支援が必要な人たちは、弱い存在として捉えられがちです。「何でも支援が必要な人」、「一人で何もできない人」と周りから決めつけられることもあります。また支援が必要な人自身も、自らを支援されるだけの存在と思い込んでしまう場合もあります。 この条例では、「障害者等=支援されるだけの存在」ではないという前提に立ち、障害者等が自ら決定することの必要性、その参画が社会によい効果を生み出すことへの理解の必要性を大切な考え方としています。 3 インクルーシブ社会は、誰もが日常生活又は社会生活の様々な場面において支援を必要とする状態になり得るとの認識のもと、障害者等が必要なときに必要な支援を受けられることが、誰もが心から安心して暮らせる社会につながると理解されることを基本として実現されなければならない。 今「障害者等」でない人=支援を必要としていない人でも、いつかは「障害者等」=   支援が必要な人になる可能性があります。 つまり、今「障害者等が必要なときに必要な支援を受けられること」は、すべての人にとってのセーフティネットになると言えます。 いつ支援が必要な状態になっても大丈夫な社会が、すべての市民が安心して暮らせる社会であるという考え方が広がれば、インクルーシブ社会を目指すための取組を「自分ごと」と捉える人が増えることにつながります。 4 インクルーシブ社会は、誰もがそれぞれの置かれた状況に応じて個性を活かし、  持てる力を最大限に発揮することを旨として実現されなければならない。 人は、個性やその置かれた状況によって、「できる」こともあれば「できない」こともあります。(「できる」「できない」という線引き自体も一方向からの考え方にすぎません。) そしてこれは、必ずしも障害者等に限ったことではなく、誰もが同じです。それにもかかわらず、他の人と比較され、浅慮や偏見から「できない」というレッテルを貼られ、辛い思いをしている人がいます。 しかしながら、いかなる個性を有し、どのような状況下にある人であっても、すべての人が社会の一員であることは紛れもない事実です。 すなわち、インクルーシブ社会を実現するためには、他人との比較による優劣に捉われることなく、その人の置かれた状況や個性を踏まえ、自らの最大限の力を発揮することを大切と考え、すべての人が、それぞれの個性やその置かれた状況を尊重することが重要になります。 市の責務 第4条 市は、基本理念にのっとり、インクルーシブ社会の実現に向けた施策(以下「インクルーシブ施策」という。)を推進するものとする。 インクルーシブ社会の実現をめざすためには、まず市が率先して、基本理念にのっとってインクルーシブ施策を実践しなければなりません。この条例の各論に規定した施策を実施し、また他の条例等に基づく施策を実施する際にも、この条例の理念や基本方針を基礎とします。 2 市は、職員に対して研修等を行い、インクルーシブ社会の実現に向けて取り組むために必要な職員一人ひとりの意識の向上を図らなければならない。 インクルーシブ社会の実現に向けた効果的な施策を実施するには、市の職員一人ひとりがこの条例の理念や基本方針を意識して取り組むことが重要です。例えば当事者参画の必要性や情報保障の重要性について職員が理解すれば、当事者の声を聴きながら施策を展開する場面が広がり、より良いまちに近づきます。 3 市は、総合的かつ計画的にインクルーシブ施策を推進するために、市の関係部局の横断的かつ一体的な連携を促進するものとする。 市が目指すインクルーシブ社会は一朝一夕に実現できるものではなく、また特定の部局のみで実現できるものではありません。施策を展開する際には、部局の垣根をなくし、それぞれが強みを活かしながら連携していきます。 市民の役割                                     第5条 市民は、基本理念に対する理解を深めるとともに、積極的にインクルーシブ社会の実現に向けた取組(以下「インクルーシブな取組」という。)を推進するよう努めなければならない。 市民の皆さんには、まず、自らがインクルーシブ社会の実現のために重要な役割を果たすことを知ってほしいと考えています。多様性の理解を深める研修に参加したり、手話を学んだり、認知症について勉強するなど時間がかかることから、地域の高齢者や障害者、子どもへのお声がけや見守りといったことまで、ほんの些細なことであったとしても一歩を踏み出すこと、それがインクルーシブ社会を実現するための市民の皆さんの重要な役割です。 2 市民は、市が実施するインクルーシブ施策に協力するよう努めなければならない。 市民の皆さんにはインクルーシブ社会の実現に向けて主体的に取り組んでいただきたいと考えていますが、実際に主体的に取り組むのはなかなかハードルが高いものです。まずは、市が実施する様々な施策に協力することから始めてみるのはいかがでしょうか。 事業者の役割                                    第6条 事業者は、基本理念に対する理解を深めるとともに、積極的にインクルーシブな取組を推進するよう努めなければならない。 事業者は主に不特定多数の人にサービスを提供する立場であり、様々な特性を有する多くの人と接する機会も多く、規模により違いはあるものの、一般市民よりも社会的影響は大きいと言えます。 さらにハード面においても、店舗の段差をなくしたり、手すりを付けるなど、ユニバーサルデザインのまちづくりに直接貢献できる立場にある事業者も少なくありません。 この項では、そのことが多くの事業者に認識され、「事業者だからこそできること」を進める必要性を示します。 2 事業者は、市が実施するインクルーシブ施策に協力するよう努めなければならない。 事業者には自ら取組を推進していく姿勢が求められます。また、インクルーシブ社会の実現に向けた事業者の役割の重要性は、市も認識しているところであり、研修の実施や様々な補助制度があります。 まずは、市が実施する研修や補助制度を知り、興味を持つところがスタートです。市も、研修や補助制度の周知・啓発に努めていきます。 3 事業者は、誰もが働きやすい就労環境の整備を推進するものとする。 障害者等の働く機会を創出するには、就労環境が大きく影響します。この項では、そのことを事業者自身が認識し、可能な範囲や方法で職場環境を整備することを求めています。なお、市の職場環境の整備については、第4条第1項に基づく施策として第16条に規定しています。 財政上の措置                                    第7条 市は、インクルーシブ施策を推進するため、予算の範囲内において、必要な財政上の措置を講ずるものとする。 インクルーシブな取組を推進するにあたっての財政上の措置について定めています。 取組推進のためには、財政的な裏付けが必要となることから、市としては、予算の範囲内で必要な財政上の措置を講ずることを確認しています。 第2章 基本方針 あらゆる差別の解消                                 第8条 インクルーシブ社会を実現するためには、あらゆる差別が解消されなければならない。 差別がインクルーシブ社会の実現の妨げとなるのは、言うまでもありません。 明石市においてはこれまでに、子どもへの差別の禁止(明石市こども総合支援条例)、  障害者への差別の禁止(明石市障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮らせる共生のまちづくり条例)など、条例に基づいて差別の禁止を謳ってきたところです。 この条例においても、いかなる理由があっても差別は認められず、あらゆる差別が解消されなければならないことを、基本方針としてこの条で示しています。 2 市は、市民、事業者及び関係機関と連携しながら、差別を解消するために必要な施策を推進するものとする。 差別を解消するには、すべての市民が差別を許さず自ら差別をしない姿勢を持つ必要がありますが、まず市が率先してその姿勢を示すことが重要です。 明石市ではこれまでも差別を受けた人の属性ごとに必要な施策を実施してきましたが、それを引き続き実施していくとともに、市民や事業者、関係機関の皆さんと連携しながら、属性に捉われることなくあらゆる差別を解消するために必要な施策を進めていきます。 3 前項に規定する必要な施策のうち、合理的配慮の提供(障害者が現に社会的障壁の除去を必要としていることが認識できる場合において、当該障害者が障害者でない者と同等に権利を行使することができるようにするため、その実施が社会通念上相当と認められる範囲を超えた過重な負担とならない程度で、当該障害者の意向を尊重しながら、その性別、年齢及び障害の状態に応じて、必要かつ適切な現状の変更及び調整等の措置を行うことをいう。)その他の障害を理由とする差別の解消に必要な事項は、別に条例で定める。 2016年4月に明石市が施行した「明石市障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮らせる共生のまちづくり条例(平成28年条例第5号)」との関係性を表す条文です。 障害者の差別解消についても、この条例の「誰も取り残さない」というインクルーシブ理念に含まれていることを、障害者差別の歴史的な背景を踏まえて特に明確にする趣旨で規定しています。 障害者等の参画                                   第9条 インクルーシブ施策及びインクルーシブな取組(以下「インクルーシブな取組等」という。)を効果的に実施するには、障害者等の参画を得ることの重要性及び有効性を障害者等を含むすべての者が深く認識するとともに、様々な立場の障害者等の積極的な参画が図られなければならない。 当事者参画の意義について定めています。 当事者参画は、義務感から形式的に実施しても効果は望めません。取組の質を高める有効な手法であることを、当事者参画に関わる全ての人が、取組の質を高める有効な手法であることを理解し、互いに共有して実施することが重要です。 また障害者等も、自らの積極的な発信がインクルーシブ社会の実現につながることを認識することが重要です。 様々な個性、様々な状態にある人たちからの多面的な意見が、実施する取組への良い効果を生みます。 2 障害者等の参画は、障害者等との対話を通じ、共にインクルーシブ社会の実現を目指すという姿勢で行われなければならない。 アンケートによる意見聴取など一方からの発信だけでなく、双方向の対話を通じて一緒に目的に向かうことで、参画の効果を高めることが望ましいという、当事者参画のスタンスを示しています。 3 インクルーシブな取組等について、障害者等の参画を得た場合は、当該参画を行った障害者等のニーズを踏まえ、その検討が行われなければならない。 当事者参画で得たニーズは、実質的なものとして誠実に取り扱われることが必要です。 ここでいう「実質的」とは、そのニーズを認識し、意見の反映の可否を検討することも含まれます。 まずは当事者ニーズを知り、今後につなげることが重要です。「今回意見を反映できなかったとしても、当事者参画により得たニーズは今後取組を実施する際の指針として、大きな意味がある。」と認識することが、当事者参画制度を広げる第一歩です。 4 市は、インクルーシブ施策を実施する場合は、企画立案から評価検証に至るまでのすべての過程において、障害者等の参画機会を確保するものとする。 当事者参画を進めることが難しい理由として、障害者等との日頃からの接点がなく、  参画してもらうための手法などがわからないことが挙げられます。 そこで市は、「あかしインクルーシブアドバイザー制度」を立ち上げ、アドバイザーである障害当事者や専門家をコーディネートしていきます。例えば、事業者が検討している店舗や広報パンフレットのバリアフリー化などについて、検討している内容を伺いながら、より良い方法がないかを多様な当事者と一緒に考え、提案していく制度です。お気軽に相談・利用してください。 また、特に施設整備などの場合、事前に行う当事者参画は設計書など図面によるものが多く、実際に整備が完了した後でしかわからない部分が多々あります。 整備完了後にも当事者の参画を得て検証及び評価を行うことで、当該整備の事後改善につなげることができ、また施工上改善が難しい場合も、検証及び評価で得た意見等を今後の整備に活かすことができます。 情報の確保及び利用                                 第10条 インクルーシブ社会を実現するためには、すべての者が必要な情報を確保することができるよう配慮されなければならない。 私たちは、日々多くの情報を新聞やテレビ、インターネットなど様々な媒体から得ています。また、外出先においても電車・バスなどでのアナウンス、街にある案内板などから情報を得ています。 しかしながら、これらの方法で情報を得ることができない人もいます。例えば、案内板などに表示された情報は視覚障害者には伝わらないことが多く、小さい文字は高齢者も読みにくいものです。アナウンスなどの音声案内であれば、聴覚障害者を含め耳の聞こえにくい人には伝わりにくいでしょう。 また、昨今コンピュータやインターネットなどの情報技術が普及していますが、それらを利用することができる人とできない人の間で様々な格差が生じ、いわゆる「デジタルデバイド」として問題になっています。さらに、今後も情報技術の目覚ましい進歩が想定される中で、新たな情報技術を利用できる人とできない人との間に、さらなる格差が生じることも考えられるでしょう。 情報が伝わらないということは、平常時の不便さを生むだけでなく、災害や事故などの非常時には命取りにもなりかねません。 誰もが安心して生活できるインクルーシブ社会には、まず必要な情報を誰でも得ることができるようにすることが重要です。 2 市は、情報を得ることが困難な者が有している多種多様なニーズを的確に把握し、必要な情報をこれらの者に適切に提供するものとする。 市が市民に提供する情報は、平常時はもちろんですが、災害などの非常時には特に重要なものとなります。 既存の方法では情報を得ることが難しい市民に対して、まず市が情報をどのような方法で提供すべきかを知り、ニーズに応じた方法で提供することが必要です。 例えば、音声情報と文字情報のいずれかだけでは情報を得ることができない人には、複数の方法で情報提供することが求められます。また、従来のお役所言葉を使った難しい表現ではなく、できるだけ多くの市民に理解してもらえるようなわかりやすい表現で提供することも必要です。 3 市は、誰もが円滑に情報を利用し、及びその意思を表示できるよう、情報伝達手段の確保等に関し、必要な施策を講じなければならない。 既存の方法で情報を得ることが難しい人がいるだけでなく、得た情報を理解したり、自ら発信したりすることが難しい人もいます。 例えば、聴覚障害者が店員に注文する場合、店に筆談ボードが用意されており、また手話でコミュニケーションできる店員がいれば情報伝達がスムーズになります。 また、災害時等の避難所で子どもや知的障害のある人に内容を理解してもらったり、要望を聞き取ったりするには、イラストを多用したコミュニケーションボードが有効な場合もあるでしょう。 このように様々な場面において、個々の特性に応じた情報伝達手段を確保しておくことは有効かつ重要であり、市はそのために必要な施策を進める必要があります。 4 前項に規定する必要な施策のうち、手話等コミュニケーション手段(独自言語としての手話、要約筆記等の文字の表示、点字、音訳、平易な表現、代筆及び代読その他日常生活又は社会参加を行う場合に必要とされる補助的及び代替的な手段としての情報及びコミュニケーション支援用具等をいう。)の推進に関し必要な事項は、別に条例で定める。 明石市は、障害のある人がその障害特性に応じたコミュニケーション手段を利用しやすい環境を構築することを目的として、2015年4月に「手話言語を確立するとともに要約筆記・点字・音訳等障害者のコミュニケーション手段の利用を促進する条例(平成27年条例第2号)」を施行しました。 同条例では、手話だけでなくそれぞれの障害特性に応じたコミュニケーション手段の利用促進を図ることで、障害者の情報アクセスとコミュニケーションの保障を目指しています。 この項では、同条例がこの条例に規定する情報保障の一端を担っていることを明確にしています。 市、市民、事業者及び関係機関の連携協力                       第11条 市、市民、事業者及び関係機関は、相互に連携協力し、一体となって、インクルーシブな取組等を推進しなければならない。 インクルーシブ社会は、市だけで実現できるものではなく、その取組は、市、市民、事業者、関係機関が連携協力して進めることが重要です。 この項では、まち全体でインクルーシブ社会の実現に向けた取組を進める必要性を示しています。 2 市は、総合的かつ計画的にインクルーシブな取組等を推進するために、市、市民、事業者及び関係機関の連携を促進しなければならない。 連携協力を進めるためには、主となって音頭を取る立場が必要であり、それを市が担うことを明確にしています。 第3章 インクルーシブ社会の実現に向けた基本的な施策 ◆前提としての考え方◆ この章に規定されている内容は、それぞれがインクルーシブ社会の実現に大きく貢献するものであり、かつ、実現可能であると考えられるものをテーマとしています。 ただし、現時点で必要性はあっても、それに対する取組や解決策が漠然としているテーマは、まだ機が熟していないと考え、条文化を見送っています。 条例の理念は不変ですが、ここに規定される基本的施策及びそれに基づく具体的取組は、社会情勢の変化、技術の進歩等にともない、今後目まぐるしく変容することが想定されます。 この変容に対応するためには、この条例自体を進化し続ける条例として捉え、必要性が高まり、機が熟したときには、積極的に見直しを行うべきであると考えています。 ◆規定する順番の考え方◆ ソフト・ハード両面から特に進める必要があり、かつ、関わる人の多様さ、取組を進めるための費用規模など大きなテーマである「教育」「災害」を最初に規定します。 その後、明石市が推し進めてきた障害者施策の経緯を踏まえ、「相談」「地域で暮らすための支援」「障害者就労」といった特に障害者の関連が深いソフト施策のテーマを規定します。 次に現在検討を進めているバリアフリー法に基づく協議会のテーマでもある「施設のバリアフリー化」「移動手段の確保」「バリアフリー法との関係」のハード施策のテーマを規定します。 「ユニバーサルツーリズム」については、主にソフト・ハード両面に影響するテーマとして、最後に位置付けます。 インクルーシブ教育の推進                              第12条 すべての子どもたちが、地域の学校で共に学ぶことを基本とし、かつ、安心して学び、自分らしさを発揮できる学校教育(以下「インクルーシブ教育」という。)を実現するためには、市、学校、関係機関等の連携のもと、これらの者及び子どもたちの家族の間でインクルーシブ教育の理念が共有されるとともに、子どもたちの声に耳を傾けながら、誰もが参加し、学ぶことのできる環境づくりが図られなければならない。 明石市における現時点の「インクルーシブ教育」とは、「みんなが一緒の教室で学ぶこと」を原則としつつ、加えて「それぞれのニーズに応じた学び方などを希望できる選択肢があることで、安心して学び、自分らしさが発揮できること」と考えています。もちろん、自分らしさが発揮されることが一番大切であり、そのためには第4項に定めるように選択することができる環境が必要です。 そして、そのために「インクルーシブ教育の考え方が明石市全体で共有されること」と「子どもたちの声を踏まえた環境整備がなされること」の2つが大きなポイントであることを示しています。 2 市は、学校、関係機関等の連携に向けた取組、教職員の理解を深めるための取組その他のインクルーシブ教育を実現するために必要な学校、関係機関等に対する取組を推進するものとする。 この項から第5項までは、学校現場などの声を聴くことで見えてきた課題を踏まえ、  進めるべき取組を規定します。 この項では、校務が多様化する学校と、支援者、地域などの連携体制の整備や、研修などで教職員の知識や意識を向上させ、人員不足のカバーにつなげる取組など、学校や関係機関等に対して必要な取組の推進について規定します。 3 市は、様々な特性を持つ子どもたちが共に過ごすことができる環境を確保し、すべての子どもたちに対して多様性への理解を深める取組を実施する。 多様性への理解を持つ人を増やし、社会全体に多様性を広げるためには、低年齢のときから、保育所、幼稚園、小学校などでみんなが一緒に時間を過ごすことなどを通じて、多様な社会を体感する(当たり前にする)ことが重要です。 この項では、子どもたちの多様性への理解を深めるために必要な取組を、市が実施することを規定します。 4 市は、すべての子どもたちが、地域の学校で共に学ぶことができる環境及び学びの機会について、自分自身で選択することができる環境を整えるものとする。 第1項でも述べたように、「インクルーシブ教育の実現」に向けたキーワードの一つは「選択肢」です。選択肢を増やすためには、ソフト面の改善だけでなく環境整備が大きなポイントとなります。 例えば、地域の学校には医療設備や看護師の配置がないことが多く、医療的なケアが必要な子どもたちが、あたりまえに自分の暮らす地域の学校に入学し、そこで地域の友達と一緒に学ぶことが困難な現状があります。多様な個性を持つ子どもたちが安心して学校生活を送り、充実した学びを得ることができるようにするためには、通常学校で看護師を確保するなど人的な支援が必要です。 また、ろう児の教育においては、手話言語の堪能な教員が求められるなど、必ずしも通常学校で健常児とともに学ぶことが選択されない場合もあります。 このように人材、設備といった環境を整えていくことが、子どもたちの選択肢につながることを踏まえ、市には環境整備を進めていくことが強く求められます。 5 市は、専門性を持つ人的資源を確保するなど前3項の取組を推進するために必要な措置を講じるものとする。 前3項の取組を実効性のあるものにするためには、他のテーマより、人件費、備品費、設備費をはじめとする多くの費用がかかります。 予算措置については、第7条においても総論的に述べていますが、敢えてここで再度措置の必要性を示しています。 災害時要配慮者の支援等                               第13条 災害時に災害時要配慮者(災害時に特に配慮を要する者をいう。以下同じ。)の安全が確保されるためには、平常時における地域住民同士のつながりの重要性が市、市民、事業者、関係機関等に認識されなければならない。 東日本大震災での障害者の死亡率は、住民全体の死亡率の2倍であったというデータがあります。またこれらは、普段からの備えと周囲の支えがあれば助かっていたかもしれないとも言われています。一般的に災害においては、移動が困難であったり、情報保障が不十分であったりするなどの要因で、障害者を含む災害時要配慮者の死亡率が高い傾向があります。 検討会では、この点に関し、障害者も健常者も一緒に防災訓練に参加するなど平常時における地域での障害者と健常者のつながりの重要性が何度も議論になりました。 この項では、これらの議論を踏まえ、まず平常時の重要性について謳っています。 2 市は、災害時において、災害時要配慮者の避難及び避難生活が適切に支援されるよう、日頃から地域住民同士が連携協力しやすい環境づくりに努めるものとする。 前項の一般論を形にするには、具体的な地域での動きが必要です。一方、明石市においては、地域が主体となった連携協力はまだ過渡期の状況であり、地域によって大きな差もあります。 この現状を踏まえ、条例においては、まず地域住民同士が連携協力しやすい環境づくりを、市が進めることを規定します。 障害者等を含む地域住民は、市民の役割(第5条第2項)に基づき、市が行う環境づくりに協力することが求められます。 3 市は、前項に掲げるもののほか、災害時における災害時要配慮者に対する支援に係る施策を推進するものとする。 災害時、障害者や高齢者を含め誰も取り残さず、あらゆる人を受け入れるという、国連防災世界会議で示された「インクルーシブ防災」という考え方があります。 市では、災害時の円滑かつ迅速な避難支援等の実施を支援し、避難行動要支援者の生命又は身体を災害から保護することを目的として2016年9月に「明石市避難行動要支援者名簿情報の提供に関する条例(平成28年条例第6号)」を施行するなど、災害時要配慮者の支援に係る施策を推進しています。 この項では、今後も災害発生時に災害時要配慮者をしっかり支援できるよう、平常時・災害時問わず必要な取組を進める旨を規定します。 4 市は、災害と同程度と認められる大規模な感染症その他市民の生活及び安全が脅かされる事態が発生した場合は、市民の生活及び安全を確保するため、当該事態の特性を踏まえ、迅速かつ適切な対応を行うものとする。 一般的に「災害」とは災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第2条第1号に定めるものをいいますが、それ以外にも新型コロナウイルス感染症による大規模な感染症等、  生活や安全が脅かされる場面は多くあります。 現にコロナ禍においては、コロナに罹患した人、収入が減ったり、収入源が断たれたりした人、帰省した際にいわれなき誹謗中傷を受けた人など生活や安全が脅かされた多くの人がいました。 災害に限ることなく、そのような場面にも市がしっかりと対応し、市民の生活と安全を守ることが重要です。 総合相談支援体制の整備等                              第14条 市は、障害者等からの相談に総合的に対応することができるよう、関係部局の横断的な連携のもと、相談体制を整備するものとする。 総合相談とは、各種制度ごとの相談ではなく、個々の生活における様々な課題に対して総合的に対応する相談をいいます。 この項では、総合相談支援体制の整備は、どのような支援体制にするかを含め、関係部局全体で連携しながら進める必要があることを明確にしています。 2 市は、相談体制を整備する際には、関係機関及び地域住民と連携するものとする。 総合相談支援体制の整備は、市だけで行えるものではありません。個々の生活に基づく様々な課題に対して総合的に対応するには、相談者の地域での生活状況を知ることが欠かせません。この項では、市と支援者などの関係機関や地域での見守りを含めた地域住民との連携が必要であることを明確にしています。 3 市は、障害者等が抱える課題が深刻化する前に当該課題を顕在化させるとともに、本人の意思決定を尊重し、及び支援し、かつ、本人自らの力が発揮されるよう配慮しながら、課題解決につなげるための適切な支援に努めるものとする。 障害がある家族がいるのを知られたくない、障害があったら偏見の目にさらされるという不安などから、課題が顕在化せず深刻化してしまう現状があります。そうなる前に適切な支援があれば助けられるケースが少なからずあり、市としては、その意識を持って課題の顕在化や適切な支援を進めていく必要があります。 併せて、問題の解決は、可能な限り本人起点によることが望ましいことを示しています。 地域生活の支援                                 第15条 誰もが地域で安心して快適に生活するためには、住まいの確保、支援サービスの提供その他の地域での暮らしの支援に関する取組が推進されなければならない。 どこで暮らすかといった居住の自由は、憲法でも認められている重要な権利の一つです。しかしながら現実的には、様々な事情により地域で暮らすことが難しい人がいるなど、暮らしの選択が十分にできる環境にはなっていません。 インクルーシブ社会を実現するには、支援が必要な人を含めすべての人たちが、暮らしたい場所で暮らすことができる環境が必要であり、特に地域で安心して快適に生活できることが重要です。そしてこのことは、ユニバーサルデザインのまちづくりの考え方とも一致します。 この項では、地域生活の支援の必要性について規定しており、具体的な内容について第2項から第4項までに規定しています。 2 市は、障害者の地域移行の促進に寄与する施設の整備その他の住まいの確保に困難を抱える者にとって必要な施策を行うよう努めるものとする。 地域移行支援とは、障害者支援施設等及び精神科病院に入所・入院している障害者等に対して、住居の確保や障害福祉サービスの体験利用・体験宿泊のサポートなど地域生活へ移行するための支援を行うものです。 明石市においても、地域移行の受け皿として重要な役割を果たすグループホームの整備を含めた住まいの確保などを進めていく必要があり、この項ではそのことを規定しています。 住まいについての選択肢があり、地域において安心して楽しみながら生活できるよう、施策を進めていきます。 3 市は、福祉に関する知識又は介護等の技能を有する者(以下「福祉人材」という。)の知識及び技能の必要性を認識し、かつ、当該必要性に係る事業者の理解促進に努めるものとする。 前項の規定により、多くの施設が整備されたとしても、そこで働く人材(グループホームであれば世話人)がいなければ、施設の運営ができません。施設が運営できなければ、せっかくの施設整備が無駄になってしまいます。 詰まるところ、人材は福祉施設を有効なものとする根幹です。 それにもかかわらず福祉人材の給与等の待遇面は決して十分なものでなく、福祉施設では、職員の数が当事者のニーズに比して常に不足している現状があります。 そこでこの項では、まず福祉人材の必要性を示します。ただし、実際は市が必要性を認識しているだけでは意味がありません。事業者が福祉人材の必要性を一層理解することで、給与等の待遇面が改善され、働きがいが増し、人材の確保や定着につながります。 市は、次項に規定する施策とあわせて、事業者理解を進めていきます。 4 市は、研修の実施その他の必要な施策の実施により、積極的に福祉人材の養成及び専門性の向上を図るとともに、福祉人材の確保に関する施策の実施に努めるものとする。 この項では、市が福祉人材の確保や育成に関する施策に取り組むことを規定します。 例えば人材育成であれば、市が研修を主催したり、事業者が実施した研修費用を補助したりすることが挙げられます。 また、専門性の向上を目的とした資格取得を支援するために、資格取得に要する費用を補助することも考えられます。 福祉人材の確保や育成を大切なテーマとして位置付け、補助制度などを通じて支援していきます。 障害者等に対する雇用及び就労の支援                         第16条 市は、雇用する障害者等の就労環境を整備するとともに、事業者、関係機関等と相互に連携して、それぞれの特性に応じた障害者等の適切な雇用及び就労の機会の確保に努めるものとする。 「働く」ということは、社会や地域で役割を果たすということであり、大きな価値があります。しかしながら、例えば、法定雇用率を達成するための「数合わせ」の採用が障害者の職場定着を阻むなど、様々な課題があることも事実です。 様々な事情で働くことに困難を抱える人が当たり前に働くことのできる社会は、すべての人が活躍できる社会につながります。 そこでこの条では、障害者等の雇用及び就労を大きなテーマとして、まず、市が雇用する障害者等について、柔軟な採用や採用後の定着を図り、安心して働くことのできる環境を整備します。 また、障害者の就労に係る環境整備に当たっては、障害当事者職員の意見を聞きながら「障害者活躍推進計画」を策定し、具体的な取組を推進します。 障害者が期間限定で就労体験できる「チャレンジ・ウィーク」については、就労体験場所の拡大も視野に入れながら、引き続き実施していきます。 地域生活関連施設の整備等                              第17条 地域生活関連施設(官公署、学校等の公共施設、事業所、事務所、病院、集会場、物品販売業又はサービス業を営む店舗、宿泊施設、鉄道の駅、道路、公園その他の不特定又は多数の者が利用する施設をいう。以下同じ。)は、障害者等をはじめすべての市民の尊厳が大切にされ、誰もが分け隔てなく利用できるよう配慮されたものでなければならない。 高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号。以下「バリアフリー法」といいます。)では、「高齢者、障害者等が日常生活又は社会生活において利用する旅客施設、官公庁施設、福祉施設その他の施設」が、バリアフリー法による基本構想等の対象となる「生活関連施設」として定義されています。この条例では、より範囲を広げて不特定又は多数の者が利用する施設すべてを「地域生活関連施設」として位置付けています。 例えば、小規模であったとしても飲食店のように不特定の者が利用する施設は、予め利用についての配慮がなされていなくてはなりません。 この項では一般論を示し、第3項で地域生活関連施設に対する市の姿勢を改めて示しています。 2 地域生活関連施設を管理する者は、障害者等をはじめすべての市民が当該施設を安全かつ快適に利用できるよう、当該施設の職員に対する障害者等の理解に係る研修その他の必要な取組を実施するよう努めるものとする。 地域生活関連施設には、様々な人たちが訪れ、中には施設を利用するのにサポートが必要な人もいます。そういった場合に予め施設の職員の理解があれば、ハード部分の不足があったとしても、対応一つで乗り越えられることもあります。 この項では、主に研修といったソフト施策を想定し、管理者が職員に対して取組を実施するよう求めています。 3 市は、障害者等及び地域住民のニーズを踏まえて、地域生活関連施設の整備に係る施策及び前項の取組の支援に係る施策の実施に努めるものとする。 誰もが地域で安心して楽しみながら生活することができるインクルーシブ社会を実現するためには、地域生活関連施設がすべての人にとって利用しやすいことが大切です。 市としては、地域生活関連施設を整備するために必要な施策や施設職員の理解に関する取組を支援する施策を推進し、ソフト・ハードの両面から誰もが利用しやすい施設を増やしていきます。 移動手段の確保                                   第18条 市は、障害者等をはじめすべての市民の安全で安心かつ自由な移動を実現するため、切れ目のない移動手段の確保及び整備(移動するために必要な情報の確保及び情報環境の整備を含む。)に努めるものとする。 まちでイベントなどが開催されていても、楽しむためには、まずそこに行く必要があります。移動手段の確保は、まちを安心して安全に楽しむための根幹です。ここでいう移動手段の確保とは、道路のバリアフリー化や公共交通機関の充実などが図られるのはもちろんのこと、例えば目の前のバスはどこに行くのかなど誰もがわかることが必要です。そのためには、目が見えない見えにくい方、耳が聞こえない聞こえにくい方などに対する情報の提供方法も検討する必要があります。 また、地域生活関連施設には学校も含まれており、学校周辺の通学路を整備し、子どもが安心して安全に登下校できることも重要です。 そこでこの条では、移動手段や案内表示など情報の提供手段の確保の重要性を規定します。 明石市では、これまで障害者、地域住民、交通事業者などと一緒に、まち歩き点検を複数回実施しており、そこで出た意見を道路工事などに反映する取組を行っています。これは第9条に定める障害者等の参画を鍵として、当事者ニーズに沿った施策につなげている一つの例です。 移動等円滑化促進方針及び基本構想との関係                      第19条 市は、移動等円滑化促進方針(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号)第24条の2第1項に規定する移動等円滑化促進方針をいう。)又は基本構想(同法第25条第1項に規定する基本構想をいう。)を作成した場合は、これらに従ってユニバーサルデザインのまちづくりを推進しなければならない。 明石市では、誰もが「出かけることができる」「出かけたくなる」まちを目指し、ユニバーサルデザインの考えに沿って全市域のまちづくりを進めるために、「明石市ユニバーサルデザインのまちづくり実行計画」を策定し、その方針を示しています。 これは、第17条に定める「地域生活関連施設の整備等」や第18条に定める「移動手段の確保」について具体的な方針や施策を定めるものであり、インクルーシブ社会の実現に大きな影響があるものです。 そこでこの条例では、この計画に従って、ユニバーサルデザインのまちづくりを推進することを義務付けることで、この計画を重要なものとして位置付ける市の姿勢を示しています。 ユニバーサルツーリズムの促進                            第20条 市は、障害の有無及び程度、年齢、性別、国籍等にかかわらず、市民及び観光客の誰もが旅行を安心して楽しむことができる環境の整備に努めるとともに、当該旅行の普及促進に努めるものとする。 2 市は、前項の規定による環境整備及び普及促進に当たっては、様々な分野の関係機関と連携するものとする。 ユニバーサルツーリズムとは、障害の有無、年齢、性別、国籍等を問わずすべての人が安心して楽しめる旅行をめざすツーリズムの考えかたです。 明石市においては、「すべての人にやさしいまち・明石」を象徴する施設の一つとして、またユニバーサルツーリズムの拠点として、2020年3月、明石駅前に「あかし案内所」をオープンしました。旅行というと観光客のみがターゲットと捉えられがちですが、市民も含めて明石で時間を過ごすすべての人が、居心地の良さや過ごしやすさを感じられるような取組を実施しています。 この経緯を踏まえて、この条では、明石市が観光、福祉など様々な分野の機関と連携し、「あかし案内所」を拠点として、ユニバーサルツーリズムを進めていくことを規定しています。