■(仮称)手話言語を確立するとともに要約筆記・点字・音訳等障害者のコミュニケーション手段を促進する条例素案 前文 手話は言語である すべての人は、さまざまな人と出会い、言葉を交わし、自分の生活にかかわる人との多様な関係をつくる中で、その人らしい豊かな生活をおくる権利を有している。しかし、現実には、多くの障害者がコミュニケーション手段の選択の機会が制限され、困難な状態におかれている。 中でも、ろう者にとっては、ろう教育において口話法が長年にわたって行われ、その結果、ろう者の言語である手話の使用が事実上禁止されることによって、ろう者の尊厳を深く傷つける歴史をもつことになった。 平成18年に国際連合で採択され、平成26年2月から政府の批准により日本国内で発効された障害者の権利に関する条約は、定義において、言語には、音声言語だけではなく、「手話その他の形態の非音声言語」が含まれるとした。 ここで手話が言語として明確に定められたことで、手話がろう者にとって、欠かすことができない生活上のコミュニケーション手段であることが国内外で認められることになった。 多様なコミュニケーション手段の促進のために 明石市においては、障害の特性やニーズにもとづくコミュニケーション手段の選択と利用の機会が十分に確保されていないために、地域で暮らす人と人との初歩的な関係づくりに日常的な困難をきたしている人たちが少なくない。 障害者の権利に関する条約は、手話言語だけではなく、意思疎通には、言語、文字の表示、点字、音声、触覚を使った意思疎通、平易な言葉等の多様なコミュニケーション手段があるとし、同条約の趣旨を反映した障害者基本法の改正は、コミュケーション手段の利用が困難な障害者に大きな変化をもたらし、自立と社会参加の支援に大きな扉を開くものとなった。 こうした障害者のコミュニケーションの権利の実現に道を開く新しいスタートラインに立つことは、すべての市民にとって、多様な人と人との出会いと相互理解の第一歩がコミュニケーションであることを確認し合うことになり、そのことを以って、お互いに一人ひとりの尊厳を大切にしあう共生のまち−明石市づくりを目指すため、この条例を制定する。 1 総論(⇒第1章 総則) (1)目的 この条例は、言語(手話を含む。)その他のコミュニケーションのための手段の利用が困難な障害者にとって、障害特性に応じたコミュニケーション手段の選択と利用の確保が必要であるとの認識に基づき、手話その他のコミュニケーション手段の普及及び地域において手話その他のコミュニケーション手段を利用しやすい環境の構築に関し、基本的理念を定め、市の責務及び市民、事業者の役割を明らかにするとともに、総合的かつ計画的に施策を推進し、もって全ての人が相互に理解し合い、安心して暮らすことができる地域社会の実現を目的とする。 (2)定義 この条例において、各用語の意義は、次に掲げる当該用語の定めるところによる。 ア 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)、その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により、話すこと、聞くこと、見ること、書くこと、読むこと、認知することに困難があるため、手話その他のコミュニケーション手段を選択し、利用できない、又は音声や文字等による情報にアクセスできないことにより、日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある者をいう。 イ 社会的障壁 障害者が日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。 ウ 手話等コミュニケーション手段 言語(手話を含む。)、要約筆記等の文字の表示、点字、音訳、平易な言葉、必要があると認められる場合の代筆又は代読その他のコミュニケーション手段に関する補助的及び代替的な意思疎通の形態、手段及び様式(日常生活又は社会参加において利用しやすい情報・意思疎通支援用具等)をいう。 エ 合理的な配慮 日常生活又は社会生活の特定の場合において、障害者から手話等コミュニケーション手段の利用を妨げる社会的障壁の除去の実施を必要としている旨の意思表明があったときに、その実施において、実施に伴う負担が過重でない場合に行われる適切な調整及び変更等をいう。 オ コミュニケーション支援従事者等 手話通訳士・者、要約筆記者、点訳 者、音訳者(朗読者を含む。)、盲ろう者向け通訳・介助者、知的障害者・発達障害者等への伝達補助等を行う支援従事者等をいう。 (3)基本的理念 ア 手話等コミュニケーション手段の理解及び普及は、手話等のコミュニケーション手段を使用する人とそれ以外の人が相互の違いを理解し、その個性と人格を互いに尊重することを基本として行われなければならない。 イ コミュニケーション手段の促進に関する施策は、手話等コミュニケーション手段を利用する障害者がその障害特性に応じたコミュニケーション手段を選択し利用することにより、コミュニケーションを円滑に図る権利を有し、その権利を最大限尊重することを基本として、行われなければならない。 (4)市の責務 ア 市は、基本理念にのっとり、関係機関と連携して、障害者が手話等コミュニケーションを利用し日常生活又は社会生活を営むことを妨げる社会的障壁の除去について必要かつ合理的な配慮を行うことができるよう支援し、手話等コミュニケーション手段の普及及び地域社会において手話等コミュニケーション手段を利用することができる環境の整備を促進するものとする。 イ 市は、手話等コミュニケーション手段を利用する障害者及びコミュニケーション支援従事者等の協力を得て、手話等コミュケーション手段の意義及び基本理念に対する市民の理解を深めるための取り組みを行うものとする。 (5)市民の役割 市民は、基本的理念に対する理解を深め、市の施策に協力するとともに、地域において手話等コミュニケーション手段を利用しやすい環境の整備に努めるものとする。 (6)事業者の役割 事業者は、基本的理念に対する理解を深め、市の施策に協力するとともに、コミュニケーション支援従事者等と連携し、障害者が手話等コミュニケーション手段を利用できるよう合理的な配慮の実施に努め、相互にコミュニケーションを図ることができる環境づくりに協力するものとする。 (7)施策の方針 @ 市は、障害者が手話等コミュニケーション手段を利用するための施策を策定する場合においては、4に定める明石市手話言語等コミュニケーション施策推進協議会の意見を聞き、その意見を尊重するよう努めるものとする。 A 施策の策定及び障害者計画の推進 市は、手話等コミュニケーション手段を促進するために、次の施策を策定 し、同施策を市の障害者計画に位置づけ、以って施策を総合的かつ計画的に推進するものとする。 ア 手話等コミュニケーション手段の理解及び普及を図るための施策 イ 障害者及び市民が手話等コミュニケーション手段に関する情報を得る機会の拡大のための施策 ウ 障害者が手話等コミュニケーション手段を選択することが容易にでき、かつ、手話等コミュニケーション手段を利用することができる環境の整備のための施策 エ コミュニケーション支援従事者等の配置の拡充及び処遇改善等、コミュニケーション支援従事者等のための施策 オ その他手話等コミュニケーション手段の促進のための施策   (8)手話等コミュニケーション手段に関する調査及び研究 市は、手話等コミュニケーション手段の利用者及びコミュニケーション支援従事者その他の関係者が、この条例で定める手話等コミュニケーション手段の促進に資するために行う調査及び研究の取り組み及びその成果の普及に協力するものとする。 (9)財政上の措置 市は、手話等コミュニケーション手段に関する施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるものとする。 2 手話言語の促進(⇒第2章)  (1) 手話言語を学ぶ機会の確保及び普及 ア 市は、手話は言語であるとの認識に基づき、ろう者、手話通訳者及び関係機関等と協力して、学校等その他の市民が手話を学ぶ機会の確保及び普及のための取り組みを促進するものとする。 イ 市は、公的機関及び事業者が手話言語に関する学習会等を開催する場合において、その職員が手話言語の意義等を理解し、手話を学習し普及する取り組みについて支援するものとする。 (2) 手話を用いた情報発信等 ア 市は、ろう者が市政に関する情報を速やかに得ることができるよう、手話等を用いた情報発信に努めるものとする。 イ 公的機関等が主催する講演会等の手話通訳者の配置 ウ 市は、ろう者が手話を身近に使え、手話による情報を入手できる環境を整備するため、手話通訳者の派遣、ろう者等の相談を行う拠点の支援等を行うものとする。   (3)手話通訳者等の確保及び養成等 市は、関係機関と協力して、ろう者が地域において安心して生活できる環境づくりに資するため、手話通訳者等(ろう者を含む。)の手話を使うことができる者及びその指導者の確保、養成及び手話技術の向上を図るものとする。 (4) 学校における手話言語の普及 ア 市は、学校において、ろう児童生徒が手話で学ぶことができるよう、必要な措置を講ずるよう努めるものとする。 イ 市は、手話言語に関する理解を深めるため、学校教育における啓発及び普及に資する必要な措置を講ずるよう努めるものとする。 3 要約筆記・点字・音訳等の促進(⇒第3章) (1)要約筆記・点字・音訳等を学ぶ機会の確保及び普及 市は、要約筆記・点字・音訳等を必要とする障害者の障害特性によるコミュニケーション手段(以下「要約筆記・点字・音訳等コミュニケーション手段」とする。)は、日常生活において欠かすことのできないものであるとの認識に基づき、当該の障害者、コミュニケーション支援従事者等及び関係機関と協力し、市民が要約筆記・点字・音訳等コミュニケーション手段を学ぶ機会の確保及び普及のための取り組みを促進する。 (2)要約筆記・点字・音訳等を用いた情報発信等 市は、障害者が要約筆記・点字・音訳等コミュニケーション手段を身近に使 え、関係情報を入手できる環境を整備するため、次の取り組みに努めるものとする。 ア 要約筆記・点字・音訳等のコミュニケーション支援従事者等の派遣又は当該障害者等の情報の利用に関する相談を行う拠点の整備及び支援等 イ 公的機関等が主催する講演会等の要約筆記者の配置 ウ 広報及び公的機関が当該障害者に送付する文書通知等における点字・音訳サービスの提供 エ その他の環境整備に必要な事項 (3)要約筆記者・点訳者・音訳者等の確保、養成等 市は、関係機関と協力して、要約筆記・点字・音訳等コミュニケーション手段を利用する障害者が地域において安心して生活できる環境づくりに資するため、要約筆記者・点訳者・音訳者等の確保、養成及び技術の向上を図るものとする。 (4)その他の障害者のコミュケーション手段に対する支援及び配慮 市は、日常生活又は社会生活において、障害特性によるコミュニケーション手段が障害者の年齢及び障害の種別、状態等に応じてきわめて多様であるとの認識に基づき、次の事項に関するコミュニケーション手段を促進するための取り組みを行うものとする。 ア 盲ろう者のコミュニケーション手段として利用される触手話、指点字その他の手段を利用する場合に必要となるコミュニケーション支援従事者の確保及び養成 イ 知的障害及び発達障害の特性を踏まえた平易な言葉によるわかりやすい情報伝達手段及び絵図や写真・記号・サイン・ジェスチャー等によるコミュケーション手段の支援及び理解の普及 ウ 喉頭摘出等による代用音声や重度の両上下肢及び音声・言語機能障害におけるまばたき等による重度障害者用意思伝達装置等のコミュニケーション手段の支援及び理解の普及 エ その他の必要とされる事項 4 明石市手話言語等コミュニケーション施策推進協議会(⇒第4章) (1)設置  市は、次に掲げる事務を行うため、明石市手話言語等コミュニケーション施策推進協議会(以下「協議会」という。)を設置する。 ア 1の(7)の定めに基づき、市長に意見を述べること。 イ この条例の施行に関する重要事項について、市長に意見を述べること。 ウ 協議会が必要と認める場合には、施策を専門的に協議する課題小委員会を置くことができる。 (2)組織 協議会は、委員10人以内で組織する。 (4)委員 ア 委員は、障害者、コミュニケーション支援従事者及び優れた識見を有する者のうちから市長が任命する。 イ 委員の任期は、3年とする。 5 附則 (1)施行期日 平成○年○月○日とする。 以上