明石市ジェンダー平等の実現に関する検討会 第1回(2022年1月28日) 委員提出資料2 古くて新しい問題 政治を含めたあらゆる決定過程への障害当事者の参画 DPI日本会議・おのうえこうじ 「われら自身の声」とDPI声明(マニフェスト)(1981年)  1981年に「われら自身の声」をスローガンに、障害当事者運動の国際的なネットワークとしてDPIが結成。その際に採択されたDPI声明(マニフェスト)では、 「障害者政策は、きわめて多くの場合、社会における資源の配分に関わっており、大抵の場合、それらは政治の問題である。以上の哲学の帰結として、あらゆる発展計画やプログラムは、障害者の参加を保障する方策を含むものでなければならない」と【基本的価値観】で述べられている。  さらに、「あらゆる個人は、社会の形成に影響力を及ぼす平等な、民主的な機会を保障されなければならない。障害者にとって、政治的決定過程に十分に参加するためには、多くの障壁が存在する。さまざまなコミュニケーションの障害を持つ人達のグループに、情報の権利が保障されなければならない。すべての公共的な場は、障害者が利用できるようにつくられなければならない。障害者はまた、社会的な討論の場、会議の場に参加する機会が与えられなければならない。さらに、障害者団体は自分たちのためになされるすべての施策に関して決定的影響力を認められなければならない」と、政治的決定過程への参加について【影響力の権利】として述べている。 「私たち抜きに私たちのことを決めないで!」を基本精神とする障害者権利条約(2006年採択、2008年発効、2014年日本政府批准)  障害者権利条約に関する国連の特別委員会には世界中から多くの障害者が参画し、検討が進められた。作成のプロセスにおいても、その内容においても「私たち抜きに私たちのことを決めないで!(Nothing abut us, Without us!)」を基本精神としている。障害の社会モデルを採用した障害者権利条約の条文には、「参加」という言葉が30カ所に登場する。「参加」が障害者権利条約の原則である。  特に、参画に密接に関連して、以下の条文があげられる。 「第4条 締約国の一般的義務 3 締約国は、この条約を実施するための法令及び政策の作成及び実施において、並びに障害者に関する問題についての他の意思決定過程において、障害者(障害のある児童を含む。以下この3において同じ。)を代表する団体を通じ、障害者と緊密に協議し、及び障害者を積極的に関与させる。」 「第33条 国内における実施及び監視 2 締約国は、自国の法律上及び行政上の制度に従い、この条約の実施を促進し、保護し、及び監視するための枠組み(適当な場合には、一又は二以上の独立した仕組みを含む。)を自国内において維持し、強化し、指定し、又は設置する。締約国は、このような仕組みを指定し、又は設置する場合には、人権の保護及び促進のための国内機構の地位及び役割に関する原則を考慮に入れる。 3 市民社会(特に、障害者及び障害者を代表する団体)は、監視の過程に十分に関与し、かつ、参加する。」 ※以上に関して、『障害者権利条約の実施―批准後の日本の課題』(長瀬修、川島聡他、信山社、2018年)所収の拙稿「第16章障害者参加」  さらに、政治参加については第30条で規定されている。特に、選挙権だけでなく、被選挙権についても言及されている点に注目したい。 「第30条 政治的及び公的活動への参加  締約国は、障害者に対して政治的権利を保障し、及び他の者との平等を基礎としてこの権利を享受する機会を保障するものとし、次のことを約束する。 (a) 特に次のことを行うことにより、障害者が、直接に、又は自由に選んだ代表者を通じて、他の者との平等を基礎として、政治的及び公的活動に効果的かつ完全に参加することができること(障害者が投票し、及び選挙される権利及び機会を含む。)を確保すること。 (i) 投票の手続、設備及び資料が適当な及び利用しやすいものであり、並びにその理解及び使用が容易であることを確保すること。 (ii) 障害者が、選挙及び国民投票において脅迫を受けることなく秘密投票によって投票し、選挙に立候補し、並びに政府のあらゆる段階において実質的に在職し、及びあらゆる公務を遂行する権利を保護すること。この場合において、適当なときは支援機器及び新たな機器の使用を容易にするものとする。 (iii) 選挙人としての障害者の意思の自由な表明を保障すること。このため、必要な場合には、障害者の要請に応じて、当該障害者により選択される者が投票の際に援助することを認めること。 (b) 障害者が、差別なしに、かつ、他の者との平等を基礎として、政治に効果的かつ完全に参加することができる環境を積極的に促進し、及び政治への障害者の参加を奨励すること。政治への参加には、次のことを含む。 (i) 国の公的及び政治的活動に関係のある非政府機関及び非政府団体に参加し、並びに政党の活動及び運営に参加すること。 (ii) 国際、国内、地域及び地方の各段階において障害者を代表するための障害者の組織を結成し、並びにこれに参加すること。」 ルワンダの研修生から寄せられたインパクト ジェンダー平等、障害者枠  DPI日本会議では、2002年からアフリカ地域の障害者リーダー研修事業を実施してきた。毎回、海外研修生から出身国についてのカントリーレポートをしてもらうイベントを設定していた。その中で、ルワンダからきた障害女性の研修生からの報告は、日本の参加者に大きなインパクトを与えた。  一つ目は障害者団体をはじめ各種市民団体の役員のジェンダー平等が規約で定められていること、二つ目は議員の選出に当たってジェンダー平等とともに障害者枠が設定されていることだった。  大変な歴史を経た後つくられた憲法では、人権保障、実質的な平等を実現するために各種の規定がなされていることを、その後知った。  憲法76条で下院議員の内1名は障害者枠として設定されていること、さらに、地方議会(郡議会)にも障害者枠が新たに設けられ障害者委員会から選出されるようになっている。 ※以上に関して、別添の『ルワンダ共和国障害を持つ元戦闘員と障害者の社会参加のための技能訓練及び就労支援プロジェクト詳細計画策定調査報告書』(JICA、2011年1月) 障害者権利条約に至る障害当事者参画を巡る歴史、ルワンダなど国際的な先進事例をふまえた検討が進むことを期待しています。 ルワンダ共和国障害を持つ元戦闘員と障害者の社会参加のための技能訓練及び就労支援プロジェクト 詳細計画策定調査報告書 平成23年1月(2011年) 独立行政法人国際協力機構人間開発部 (1)地方行政  ルワンダにおいては障害者登録制度や障害者への公的サービス制度が整備されていないため、障害者の基本情報が一定の場所に集積されておらず、それらの情報収集は困難である。 本調査の結果、地域に居住する障害者の基本情報を得るためには、郡(District)レベル以下の行政機関との連携が有効であると考えられる。具体的には、郡事務所の社会事業担当副郡長や社会保障担当職員への働きかけが適切である。また、技能訓練生を募集・選考する際の情報源として、セクター・セル・村等に存在する貧困者リストを参考にするとよいとの助言もあった。同リストには、氏名・居住地・ステータス(未婚・既婚等)・備考の項目があり、備考欄に障害の有無が明記されているケースがある。また、行政組織が計画・実施している類似プログラムと連携することも考えられる。例えば西部県ルバブ郡事務所では、社会的弱者支援プログラムとして、路上生活障害者への技能訓練や貧困者を対象とした生計向上支援を計画中とのことであり、これらの計画とプロジェクトが連携することで、地方行政組織による障害者支援促進の一助となることが考えられる。  また、教育省管轄の職業訓練センターに関しては教育担当職員、組合に関しては組合・企業担当職員が担当しており、活動内容によって適切な協力者を得ることが円滑なプロジェクト実施の鍵となる。地方行政組織への聞き取り調査によると、書面での正式な依頼は郡長あてに行い、具体的な相談は社会事業担当副郡長に問い合わせ、副郡長から適切な職員を紹介してもらうことが適切である。 図−1 郡事務所組織図 (主要部署のみ記載) ルワンダの行政組織のイメージ図を示している。まず、郡議会(障害者グループ枠あり)と郡長がある。郡長の下には副区長(経済開発)、副郡長(社会事業)、高等事務官がおり、高等事務官のもとにはさらに総務課、計画モニタリング評価課、経理課があり、さらに下に社会保障事業部門、組合企業促進部門、教育部門などを担う部署がある。 (2) 議会(Council)  各グループの代表(女性グループ、青年グループ等)から構成される議会に、障害者グループの代表枠が新設された。議会議員は一般選挙により選出されるが、障害者グループ枠は、障害者委員会(Committee of PWDs)のメンバーより別途選出されることとなっている。議会は、国・県・郡・セクター・セルごとに設置されている。障害者委員会も同様に各行政区分に設置されており、同委員会から情報を得ることも可能と考える。 (3) 障害者関連団体  全国規模の障害者関連組織として、国家障害者連盟(FENAPH)が挙げられる。FENAPH は、FENAPH の前身であるルワンダ障害者協会・センター連盟(Federation of Associations and Centers of Handicapped People in Rwanda:FACHR)より名称変更し、2007 年 10 月に設立され、カナダ、スウェーデン、英国等からの援助を得ている。障害者団体や障害者関連制度等全般的事項に関する情報源、または、啓発活動や大規模セミナー開催時の協力先として、FENAPH のような代表的組織との連携は有効である。  なお、組織変遷により 2010 年 11 月に FENAPH は、全国ルワンダ障害者組織連合(NUDOR)と全国障害者委員会(National Committee of People with Disabilities)に分割される予定である。 NUDOR が当事者団体として政府から独立する一方、政府下の団体として、全国障害者委員 会が設立される。 図−2 組織変遷の流れ 国家障害者連盟の組織変遷の流れを示している。ルワンダ障害者協会・センター連盟が国家障害者連盟となり、さらに国家障害者連盟が全国ルワンダ障害者組織連合当事者団体と全国障害者委員会政府系団体に分割される予定である。  一方、研修員の募集・選考、フォローアップ等に関しては、個々の障害者とのネットワークを有する障害者団体との連携が必要である。例えば、主に身体障害者で構成されるルワンダ障害者市民協会(AGHR)や、視覚障害者を対象としたルワンダ盲連合(RUB)が挙げられる。両団体は先行プロジェクトの実施機関であり、本プロジェクトにおいても引き続き連携していくことが有効である。  RUB は独自の研修センターを所有しており、先行プロジェクトでは、一般の視覚障害者が参加する通常の研修コースに視覚障害がある元戦闘員も参加し、共に技能訓練を実施した。本プロジェクトにおいても同様の形をとり、障害を持つ元戦闘員と障害者が共に訓練を実施することとする。  また、AGHR は県・郡ごとに支部があり全国的なネットワークをもっているため、各地域における技能訓練生選考において協力を求めることが考えられる。また、AGHR の Zacharie 会長は、2007 年度地域別研修「アフリカ地域障害者の地位向上」研修の参加者であり、帰国研修員のフォローアップ及び活用の点からも、AGHR と協力することは有効である。 その他の障害種別ごとの代表的組織としては、以下の団体が挙げられる。 @ ルワンダ全国聾連合(Rwanda National Union of the Deaf:RNUD) A ルワンダ全国女性聾協会(Rwanda National Association of the Deaf Women:RNADW) B 全国精神障害者組織(National Organization Mental Health:NOUSPR) C トゥバクンデ(TUBAKUNDE:知的障害者の親で構成される団体) (4)元戦闘員関連団体  RDRC からの情報によると、元戦闘員(RDF、旧政府軍兵士、民兵の混合)による組合(アソシエーション)が県・郡・セルに配置されることとなった。各組合には、議長・副議長・事務長・アドバイザーが配置されており、同組合との情報交換や連携が有効である。 2−1−5 技能訓練施設のバリアフリー化  本プロジェクトにおいては、技能訓練実施施設のバリアフリー化改修工事を行うことが計画されている。先行プロジェクトにおいてバリアフリー化改修工事を行ったことで、当該施設のアクセスが向上したことに加え、関係者の障害者に対する意識向上につながった効果的手段として評価を得ている。