エスディージーズのアイコン ターゲットナンバー5 ジェンダー平等を実現しよう ターゲットナンバー17 パートナーシップで目標を達成しよう ジェンダー平等の推進に向けて あかしジェンダー平等の推進に関する条例逐条かいせつしょ 2023年4月発行 明石市政策局インクルーシブ推進室 もくじ 前文 1ページ目 第1章 総則  第 1 条 目的 3ページ目  第 2 条 定義 4ページ目  第 3 条 基本理念 6ページ目  第 4 条 市の責務 9ページ目  第 5 条 市民の役割 10ページ目  第 6 条 事業者の役割 10ページ目  第 7 条 財政上の措置 12ページ目 第2章 性別等に起因する権利侵害の禁止  第 8 条 性別等に起因する権利侵害の禁止 13ページ目 第3章 意思決定過程におけるジェンダー平等の推進に向けた基本施策等  第 9 条 あらゆる意思決定過程等におけるジェンダー平等 14ページ目  第10条 特別職 15ページ目  第11条 市職員 15ページ目  第12条 審議会等 17ページ目  第13条 政治分野 18ページ目  第14条 事業者 18ページ目  第15条 協働のまちづくり推進組織 18ページ目  第16条 防災及び災害分野 19ページ目  第17条 教育分野 20ページ目  第18条 家庭及び社会分野 21ページ目 第4章 その他ジェンダー平等の推進に向けた基本施策  第19条 防災及び災害分野における施策 22ページ目  第20条 教育分野における施策 22ページ目  第21条 家庭及び社会分野における施策 23ページ目  第22条 職場における施策 23ページ目  第23条 啓発活動の実施 24ページ目  第24条 その他の施策 25ページ目 第5章 推進体制の整備等  第25条 推進計画の策定 26ページ目  第26条 推進体制の整備 26ページ目 【参考】明石市ジェンダー平等の実現に関する検討会における検討の経緯 28ページ目 1ページ目 前文 人は誰もが個人として尊重される権利を持ち、性別等により差別されることのない平等な存在です。国際社会の共通目標であるエスディージーズにおいても、人権尊重を土台とした「誰一人取り残さない」インクルーシブの理念が掲げられており、これを実現するための前提として、性別、年齢、障害の有無及び程度、国籍などの様々な違いが、多様性として尊重されるべきこととされています。明石市においても、エスディージーズの基本理念である「誰一人取り残さない」「持続可能な」「パートナーシップ」によるまちづくりを推進し、エスディージーズ全体の基本原則でもある「ジェンダー平等」の実現に向けて様々な取組を進めてきました。しかしながら、性別による固定的な役割分担等に基づく制度や慣行により十分に社会参画ができていない人、性別等に起因する差別により苦しんでいる人、性別や障害といった複合的な要素が絡み合うことで、より困難な状況に置かれる人が存在するなど、ジェンダー平等の実現にはいまだ多くの課題があります。これからジェンダー平等を推進していくためには、すべての取組にジェンダー平等の視点を取り入れる「ジェンダー主流化」の観点からも、あらゆる場における意思決定過程において性別等にかかわりなく多様な人々が参画して、施策や取組が行われることが必要です。そして、このようなジェンダー平等の取組は、年齢、障害の有無及び程度、国籍等を理由とする複合的にもたらされる差別を解消する取組とあいまって、多様な属性を持つ人が誰一人取り残されることのないインクルーシブ社会の実現につながります。ここに、性別等による不平等がなく、市民それぞれが自分の意思で生き方を選ぶことができるようにし、もってすべての人がその個性と能力を十分に発揮することができるジェンダー平等社会を実現するため、この条例を制定します。 前文は、条文本体の前に置かれ、その法令の制定の趣旨、理念、目的などを強調して述べた文章です。具体的な規範を定めるものではありませんが、各条文の解釈の基準となるものと言われています。(参議院法制局) 明石市は「エスディージーズ未来安心都市・明石」を掲げ、ジェンダー平等を推進し、性別などにかかわらず誰もがその個性と能力を発揮し、いきいきと活躍できる社会の実現をめざしています。ジェンダー平等については、エスディージーズ(持続可能な開発目標)における最重要課題と位置付けられており、各国でその実現に向けた取組が加速しています。また、ジェンダー平等と女性及び女児のエンパワーメントは、エスディージーズを達成するための前提条件であり、 2ページ目 あらゆる政策立案にジェンダー視点が取り入れられる「ジェンダー主流化※1」は、エスディージーズを実現するための実施原則であると言われています。しかしながら、日本のジェンダー平等実現のための取組は、後れを取っているのが現状であり、例えば、世界経済フォーラムが2022年3月に公表した各国における男女格差を測るジェンダーギャップ指数は、世界146か国中116位と先進国の中で最低レベルでした。とりわけ、政治参画及び経済参画の分野でスコアが低くなっており、ジェンダー平等に向けての取組は喫緊の課題となっています。特に「性別による固定的な役割分担等に基づく制度や慣行※2により十分に社会参画ができていない人」、「性別等に起因する差別により苦しんでいる人」、「性別や障害といった複合的な要素※3が絡み合うことで、より困難な状況に置かれる人」など、具体的な課題も顕在化しています。複合的な要素については、複数の差別が重なるだけでなく、これらが交差するという問題についても考える必要があります。これらの状況を踏まえ、明石市では、課題を解消し、ジェンダー平等の実現に向けた推進施策を持続・発展させるために、様々な取組の基本指針となる総合的かつ包括的な条例を制定しました。2022年4月に施行した「すべての人が自分らしく生きられるインクルーシブなまちづくり条例(あかしインクルーシブ条例)」における理念とあいまって、性別等による不平等がなく、市民それぞれが自分の意思で生き方を選ぶことができ、もってすべての人がその個性と能力を十分に発揮することができるジェンダー平等社会を実現するために、この条例に基づき取組を進めていきます。 ※1 ジェンダー主流化  事業のあらゆる段階で、ジェンダー視点に立った上で課題やニーズ、インパクトを明確にしていくプロセスのこと。 9ページ参照 ※2 性別による固定的な役割分担等に基づく制度や慣行  男女を問わず個人の能力等によって役割の分担を決めることが適当であるにもかかわらず、男性、女性という性別を理由として、役割を固定的に分けてしまいがちである。「男は仕事・女は家庭」、「男性は主要な業務・女性は補助的業務」等は固定的な考え方により男性、女性の役割を決めている例である。(内閣府男女共同参画局) ※3 複合的な要素  社会的な弱者はしばしば複数の差別を同時に経験している。複数の差別が単に蓄積した状態(重層的差別)とは異なり、差別が互いに絡み合い、複雑に入り組んでいる状態を上野千鶴子(東京大学教授)が「複合差別論」で概念化した(『差別と共生の社会学』1996年 203ページから232ページ)。 3ページ目 第1章 総則 目的 第1条 この条例は、ジェンダー平等の推進に関し、基本理念を定め、市の責務並びに市民及び事業者の役割を明らかにするとともに、ジェンダー平等を推進するための基本的施策を定めることにより、性別等による不平等がなく、市民それぞれが自分の意思で生き方を選ぶことができるようにし、もってすべての人が個性及び能力を十分に発揮することができる社会を実現することを目的とする。 この条では、条例の目的を示しています。この条例は、ジェンダー平等の推進に関する取組についての総合的な理念条例であり、市が市民や事業者とともに取組を進めていくに当たって、方向性を示す指針となるものです。「ジェンダー平等」のテーマは非常に幅広く、条例だけで到底網羅できるものではありません。そのため、条文は一定抽象化された表現となっています。また、詳細については、市が定める推進計画やこの逐条解説書を手掛かりにしていただきたいと考えています。第2条第1号「ジェンダー平等」の定義でも記載していますが、最終目標は市民一人ひとりが個性及び能力を十分に発揮することができる社会の実現であり、これはインクルーシブ社会の実現と同じ考え方です。この条例は、そのうち、特にジェンダーの視点からアプローチしようとするもので、アンコンシャス・バイアス※4に基づく男女の役割の差や、性自認等に係る周囲の理解不足などから生じる「性別等による不平等」をなくすことで、市民それぞれが自分の意思で生き方を選ぶことができるようになることを大切に考えています。 ※4 アンコンシャス・バイアス 「無意識の偏ったモノの見方」のこと。他にも、「無意識の思い込み」「無意識の偏見」「無意識バイアス」等と表現されることもある。「第5次男女共同参画基本計画 すべての女性が輝く令和の社会へ 」においては、アンコンシャス・バイアスによる悪影響が生じないよう、男女双方の意識改革と理解の促進を図ることとしている。(内閣府男女共同参画局) 4ページ目 定義 第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。 (1) ジェンダー平等 市民一人ひとりが、社会的・文化的に形成された性別並びに性自認、性的指向及び性表現にかかわりなく、等しく権利、資源、機会、責任等を有し、その個性及び能力を十分に発揮できる状態をいう。 「ジェンダー」とは、以下のように言われています。 @ 社会や文化によって決まる男と女の違い(社会的・文化的な性差) A 社会的につくられた性別 生物学的な性別(sex)に対する概念であり、「性別役割分担」というときの「性別」が、まさにジェンダーです。「ジェンダー平等」とは、ジェンダーに基づく差別や偏見をなくすことをいい、例えば「男だから」「女だから」といった属性をもとにした先入観や固定観念による決めつけや押しつけを無くすことを指します。ジェンダーは、あくまで社会によってつくられた性別なので、社会を変革すれば、不平等なジェンダーも変えることができると考えています。例えば「男性が会長・女性が副会長」という慣行や、「政治は男性の仕事で、女性は政治家に向かない」といった男女の不平等な役割分担意識を変えていくことが、ジェンダー平等の推進につながります。また、ジェンダー平等のあり方を一律に決めつけるのではなく、個々の多様性を尊重する趣旨から、この条例におけるジェンダー平等とは、個々が性別等にかかわりなくその個性及び能力を十分に発揮できる状態としています。この条例では「ジェンダー平等」という言葉を使っており、これには理由が二つあります。まず、「ジェンダー平等の実現」が、エスディージーズにおける17の目標を実現するための実施原則とされており、「エスディージーズ未来安心都市明石」を掲げる明石市においても、そのことを尊重していることを示すためです。そして、男女という枠にとらわれず性の多様性に関する理解を広めてきたこれまでの取組を踏まえているためです。なお、国においては男女共同参画基本計画においてジェンダー平等を謳っていることもあり、考え方の方向性は国と同じであると考えています。 ※この条例では、「何々等」という表現を使用し、あくまで例示された言葉を主要な位置づけとしながらも、同旨の様々な内容や今後の社会情勢の変化を含む意図を示しています。 5ページ目 (2) 性別等 性別、性自認、性的指向及び性表現をいう。 この条例では、男女といった固定された性差だけでなく、男性、女性もそれぞれ多様であるという視点を持つなど性の多様性を大切にしています。明石市においては、2020年度からエルジービーティーキュープラス ソジー施策担当を政策局に置き、性の多様性についての理解を深めるための研修やイベント等の取組を実施してきました。誰一人取り残さないインクルーシブなまちづくりを進めていくためにも、今後も広く取組を行っていきます。 (3) 性自認 自分が女性又は男性であるか、その中間であるか、そのどちらでもないか、流動的であるか等の自らの性に対する自己認識をいう。 (4) 性的指向 異性を対象とする異性愛、同性を対象とする同性愛、男女両方を対象とする両性愛、いずれも対象としない無性愛等、人の恋愛や性愛がどのような性を対象とするかを示す概念をいう。 (5) 性表現 服装、髪形、仕草、言葉遣い等自己の性についての表現をいう。 「性自認」「性的指向」「性表現」に関する説明を定義として規定しています。「性表現」は、服装や髪形、仕草、言葉遣いなどの外見に表れる性(ジェンダー)を、自分がどう表現したいかということです。 (6) セクシュアル・ハラスメント 性的な言動(性的な関心又は欲求に基づく言動をいい、性別により役割を分担すべきとする意識又は性自認、性的指向若しくは性表現に関する偏見に基づく言動を含む。以下この号において同じ。)により個人の尊厳を侵害し、個人の生活環境及び集団の職場環境を害すること又は性的な言動に対する個人の対応に起因して、当該個人に不利益を与えることをいう。 「セクシュアル・ハラスメント」についての説明です。セクハラは、性的な言動によって、相手に不利益を負わせたり、不快な状態にさせたりする行為のことです。個人の尊厳を侵害し、個人の生活環境及び集団の職場環境を害する「環境型セクハラ」と、性的な言動に対する個人の対応に起因して当該個人に不利益を与える「対価型セクハラ」の2つを定めています。 「環境型セクハラ」の例としては、プライベートな性的情報(恋愛経験・出産などを含む)を 6ページ目 尋ねることや職場内にヌードポスターを掲示するなどが挙げられます。一方「対価型セクハラ」は、権力関係を利用し、性的な言動や行動を強要することをいい、経営者が部下に対して、性的な関係を要求したが、拒否されたためにその部下を解雇したり、降格したりすることが挙げられます。 (7) 市長等 市長その他執行機関(教育委員会、監査委員、選挙管理委員会、公平委員会、農業委員会及び固定資産評価審査委員会)をいう。 地方自治法上の執行機関を指しています。明石市では、市長のほか、教育委員会、監査委員、選挙管理委員会、公平委員会、農業委員会及び固定資産評価審査委員会が執行機関として市の行政を担っています。 (8) 市民 市内に居住し、又は通勤し、若しくは通学する者をいう。 「市民」は、市内居住者のみならず、通勤者や通学者も含んでいます。明石市で日中生活している人たちにも、この条例の趣旨を理解いただきたいと考えています。 (9) 事業者 市内において事業活動を行う者又は団体をいう。 ジェンダー平等を推進するに際して事業者固有の役割があることや、市が特に事業者を支援するための施策を実施する必要があることから、この条例では、市民と事業者を分けて規定しています。なお、明石市自治基本条例においては、事業者等を市民に含めて、対象となる様々な規定を適用させていますが、この条例においては対象となる規定が多くないため、事業者を市民に含める意義が低く、また必要な場合は市民と事業者を並立させることで、同様の効果を図っています。 基本理念 ◆基本理念の考え方◆ 明石市がこれまで進めてきた男女共同参画の取組、2021年度に実施したジェンダー平等プロジェクトの取組、同年度から2022年度にかけて実施した「明石市ジェンダー平等の実現に関する検討会」の取組など、また昨今の社会情勢を踏まえ、特に必要性の高いテーマをこの条例の基本理念として定めました。具体化できるものについては、さらに各論等で掘り下げて規定しています。 7ページ目 第3条 ジェンダー平等は、すべての人が個人として尊重され、並びに性別等にかかわりなく、その個性及び能力を十分に発揮することができる環境が整備されることを基本として、実現されなければならない。 ジェンダー平等に向けた取組は、インクルーシブ社会の実現につなげる一つの要素であり、まずはすべての人が個人として尊重されることや、個性や能力を十分に発揮できることを重要と考えています。そのためには、環境を整備することが大切であり、そうすることで、第1条に掲げる目的が実現されることをめざします。 2 ジェンダー平等は、すべての人が性別等による差別的取扱いを受けることがなく、及びすべての人に対して性別等に起因する暴力が行われることがないことを基本として、実現されなければならない。 ジェンダー平等を実現するには、「男だから」「女だから」といった決めつけによる差別に加え、性自認、性的指向や性表現を要因とする差別がない状態であることが必要です。また、暴力は、性別等や当事者の間柄を問わず、決して許されるものではありません。特に、配偶者、パートナー、交際相手などからの暴力、性犯罪・性暴力、ストーカー行為、セクシュアル・ハラスメントなどの暴力は、個人の人権を著しく侵害するものであり、ジェンダー平等社会の実現に向けた重要な課題です。この条例では、このことについて、基本理念の一つとして位置付けるとともに、第8条でも「性別等による差別的取扱いの禁止」として、ハラスメント、性暴力、アウティング※5などを禁止しています。 ※5 アウティング  カミングアウトを受けた人が本人の同意がないままに、その人の性のあり方を第三者にばらしてしまうこと。14ページ参照 3 ジェンダー平等は、家事、育児、介護をはじめとする家庭生活(以下「家庭生活」という。)及び職場、学校、地域をはじめとする社会における生活(以下「社会生活」という。)に存在する性別による固定的な役割分担等を反映した制度又は慣行を見直すことを基本として、実現されなければならない。 この項では、「性別による固定的な役割分担等を反映した制度・慣行の見直し」について定めています。「性別による固定的な役割分担等」とは、男女を問わず個人の能力によって役割分担を決めることが適当であるにもかかわらず、「男は仕事、女は家庭」、「男性は主要な業務、女性は補助的業務」というように、性別を理由にして、役割を固定的に分ける考え方をいいます。 8ページ目 役割を固定的に決めつけたり、押し付けたりしてしまうことで、その相手が傷ついたり、キャリアに影響が生じたり、可能性が狭まったりすることがあります。社会には、性別による固定的な役割分担意識がまだまだ根深く存在することを認識して行動することで、これらに基づく制度や慣行を見直すことにつなげ、法律上の平等のみならず事実上の平等をめざします。なお、男女共同参画社会基本法に基づき、毎年度国が作成している「男女共同参画白書」では、「家事・育児・介護等に男性が参画可能となるための環境整備」が見出しとして使用されており、これを踏まえて家庭生活の例示を「家事、育児、介護」としています。 4 ジェンダー平等は、すべての人が社会の構成員として、家庭、職場、学校、地域、災害時における避難所その他のあらゆる場(以下「あらゆる場」という。)において、意思決定過程に参画できることを基本として、実現されなければならない。 この条例の大きなテーマとして「意思決定過程におけるジェンダー平等」があります。その理由としては、社会におけるジェンダー平等を実現するには、意思決定過程におけるジェンダーバランスが不可欠だからです。ジェンダーバランスが図られることによって、性別等にかかわりなく誰もが意思決定に参画できる機会が保障されていることが実感でき、さらには見落としていた視点や論点が可視化され、ジェンダー平等の実現に向けて必要な取組が明確になると言えます。   また、多様な人びとが意思決定に参加すると、多角的な視点から政策課題を検討することができ、同質グループによる意思決定の偏りやリスクが解消され、新しいアイデアや提案によってイノベーションが起きやすいと言われています。すなわち、意思決定の場に多様性を反映させることが、より良い意思決定につながると言えます。 5 ジェンダー平等は、すべての人の性と生殖に関する健康と権利が尊重され、すべての人が生涯にわたって自分らしい生き方を選択できることを基本として、実現されなければならない。 「性と生殖に関する健康と権利」とは、「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」ともいい、1994年にエジプト・カイロで開催された国際人口開発会議において、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」として提唱されたことに端を発しています。女性のライフサイクルを通して、性と生殖に関する健康・生命の安全を権利としてとらえるもので、今日、女性の人権の重要な概念の一つとして認識されています。「セクシュアル・ヘルス」は、自分の「性」に関することについて、心身ともに満たされて幸せを感じられ、またその状態を社会的にも認められていること、 9ページ目 「リプロダクティブ・ヘルス」は、妊娠したい人、妊娠したくない人、産む・産まないに興味も関心もない人、アセクシャルな人(無性愛、非性愛の人)問わず、心身ともに満たされ健康にいられること、「セクシュアル・ライツ」は、自分の愛する人、自分のプライバシー、自分の性的な快楽、自分の性のあり方(男か女かそのどちらでもないか)といったセクシュアリティを自分で決められる権利、「リプロダクティブ・ライツ」は、妊娠、出産、中絶について十分な情報を得られ、産むか産まないか、いつ・何人子どもを持つかといった「生殖」に関するすべてのことを自分で決められる権利です。リプロダクティブ・ヘルス/ライツは、性の問題、思春期の問題、妊娠、出産、中絶、避妊、不妊、性感染症、更年期障害、また、性暴力や買売春など、さまざまな問題を幅広く含んでいます。すべての人が正しく性の知識を得ることが大切です。 市の責務 第4条 市は、基本理念にのっとり、ジェンダー平等の推進に係る施策(以下「ジェンダー平等施策」という。)を実施するものとする。 ジェンダー平等社会の実現をめざすためには、まず市が率先して、基本理念にのっとってジェンダー平等を推進するための施策を実践しなければなりません。まずは市から進め、市民、事業者などの幅広い取組につなげていきます。 2 市は、ジェンダー主流化の観点から、あらゆる施策の検討及び実施に当たっては、ジェンダー平等の視点に立って行わなければならない。 「ジェンダー主流化」とは、事業のあらゆる段階で、ジェンダー視点に立った上で課題やニーズ、インパクトを明確にしていくプロセスのことであり、ジェンダー平等を達成するために必要な手段であると認識されています。ジェンダー平等に関する視点を持つことは、すべてのテーマで必要です。市は、施策を検討したり、実施したりする際には、その点に十分留意する必要があります。 3 市は、ジェンダー平等施策の実施に当たっては、当該施策にかかわる多様な当事者の意見を聴くとともに、市民、事業者、地域団体等との連携に努めなければならない。 ジェンダー平等社会は、市だけで実現できるものではなく、その取組は、市、市民、事業者、地域団体等が連携協力して進めることが重要です。例えば、市民参加型のイベントやワークショップを実施し、現状やニーズを把握したり、事業者と職場環境の向上について検討したり、地域における女性リーダーを育成したりと、パートナーシップのもと様々な取組を進めていきます。 10ページ目 地域団体には、第15条に規定する「協働のまちづくり推進組織」をはじめとして、校区子ども会、PTA、地区人権教育研究協議会(地人協)、地区青少年愛護協議会(地愛協)など、様々な団体があります。取組ごとに適切な団体と連携していきます。 4 市は、職員に対して研修等を行い、ジェンダー平等の実現に向けて取り組むために必要な職員一人ひとりの意識の向上を図らなければならない。 ジェンダー平等社会の実現に向けた効果的な施策を実施するには、市の職員一人ひとりがこの条例の理念や基本方針を意識して取り組むことが重要です。そのために研修や啓発動画の作成などを通じて、ジェンダー平等の必要性、重要性などを職員に伝え、理解につなげます。 市民の役割 第5条 市民は、基本理念に対する理解を深め、あらゆる場においてジェンダー平等の推進に努めるものとする。 この条では、市民の役割について定めています。まずは、基本理念に定めている内容について、理解を深めていただきたいと考えています。ジェンダー平等社会を実現するには、市の責務とともに市民が行う取組の果たす役割が大きいことから、明記したものです。具体的には、市民一人ひとりが性別等による差別的取扱いをしないよう心がけることや、ジェンダーに関する理解を深めることなどが含まれます。 2 市民は、ジェンダー平等施策について、市と協力して取り組むよう努めるものとする。 第1項で基本理念に対する理解を深めてほしいと述べましたが、自分一人で考えて一歩を踏み出すのは、なかなか難しいと思います。まずは、例えば市が発行する啓発文書を見たり、市が実施するイベントなどの取組に参加したりするなど、様々な機会を活用することから取り組んでいただきたいと考えています。市もできる限り多くの市民の皆さまに参加いただけるよう、積極的に機会を作っていきます。 11ページ目 事業者の役割 第6条 事業者は、基本理念に対する理解を深め、事業活動を行うに当たって、積極的にジェンダー平等の推進に係る取組を行うよう努めるものとする。 この条では、事業者固有の役割について定めています。社会的な影響が大きい事業者には、性別や文化・価値観など異なる背景を持つ人材の多様性を、お互い認めあいながら組織を一体化し、推進していこうという考え方、いわゆるダイバーシティ&インクルージョンが求められており、ジェンダー平等の推進もその要素の一つです。例えば、仕事と家庭生活のどちらかを選ぶのではなく、両者が調和したバランスのよい生き方ができるようワーク・ライフ・バランスを推進することも求められており、具体的には育児休業が取得しやすい機運を醸成したり、リモートワークを取り入れたりするなど、誰もが働きやすい制度の構築や、女性リーダーの育成に力を入れるなどの取組が考えられます。意識改革として、社員研修や交流会に力を入れるのも取組の一つです。事業者の皆さまには、このような取組をより一層進めていただきたいと考えています。 2 事業者は、ジェンダー平等施策について、市と協力して取り組むよう努めるものとする。 職場におけるジェンダー平等には、「性別等にかかわらず多様な人の意思決定過程への参画」、「すべての従業員が働きやすい職場環境の整備」、「職場と家庭との両立」など様々なテーマがあります。市においても、これらのテーマにおいて支援を行うなど事業者と一緒に取り組む必要性は高いと考えており、事業者の皆さまにはこういった市の取組にぜひご賛同、ご協力いただきたいと考えており、市としても、積極的に取組を進め、発信していくとともに、これらのテーマに取り組む事業者を支援していきます。 3 事業者は、すべての従業員が職場における活動と家庭生活を両立することができるよう、必要な環境づくりに努めるものとする。 事業者は、その固有の役割として、育児・介護休業法などに基づき、従業員のワーク・ライフ・バランスに資する環境整備を進めることが求められます。昨今、男性の育児休業いわゆる「男性育休」について、社会的にクローズアップされていますが、仕事と家庭の両立といった観点から、環境整備を進めていただきたいと考えています。 12ページ目 4 事業者は、職場におけるセクシュアル・ハラスメント及び婚姻、妊娠、出産、育児又は介護に関するハラスメントの根絶に努めるものとする。 男女雇用機会均等法、育児・介護休業法が改正され、2017年1月から事業主には、セクシュアル・ハラスメントだけでなく、新たに妊娠・出産・育児休業、介護休業等に関するハラスメントについても防止措置を講じることが義務付けられています。この項ではそのことを踏まえ、特にジェンダー平等の推進に向けた障害になるこれらのハラスメントにつき、法律の規定の趣旨を踏まえ、確認的に規定しています。 財政上の措置 第7条 市は、ジェンダー平等施策を推進するため、予算の範囲内において、必要な財政上の措置を講ずるものとする。 ジェンダー平等に係る取組を推進するにあたっての財政上の措置について定めています。取組推進のためには、財政的な裏付けが必要となることから、市としては、あくまで予算の範囲内にはなりますが、必要な財政上の措置を講ずることを確認しています。 13ページ目 第2章 性別等に起因する権利侵害の禁止 第8条 何人も、あらゆる場において、性別等に起因する差別的取扱い、性暴力その他の性別等に起因する人権侵害を行ってはならない。 この条では、条例の基本方針的な位置づけとして、性別等に起因する権利侵害の禁止について定めています。意思決定過程をはじめとして、防災・災害分野、教育分野、家庭・社会分野など様々な分野に係る取組を進める前提として、この条に規定されていることが守られなくてはならないと考えています。特にこの項においては、総論的に人権侵害全般を禁止することを規定しています。「人権侵害」とは、差別、不当な制度又は慣行、暴力など様々なものがあり、次項以降に規定するハラスメント、DV、カミングアウトの強制又は禁止、アウティングなどを含む趣旨です。なお、条例上この条のみ、主語を「何人も」としています。これは、ここに規定されている内容が、法規範や社会規範として当然の内容であり、またジェンダー平等を進めるうえでの根幹となることから、市民に留まらずすべての人に当てはまる事項であることを、メッセージとして伝えようとするものです。 2 何人も、あらゆる場において、セクシュアル・ハラスメント及び婚姻、妊娠、出産、育児又は介護に関するハラスメントを行ってはならない。 「セクシュアル・ハラスメント」とは性暴力の一種であり、本来「職場や労働の場」で起こる性的人権侵害や性暴力のことを指します。また、妊娠、出産、育児又は介護に関するハラスメントとは、妊娠、出産したことに関する言動や、妊娠、出産、育児又は介護に関する休暇の取得等制度利用に関する言動などにより、働いている人たちの勤務環境が害されることをいいます。この項では、これらのことをあらゆる場において禁止することを定めています。 3 何人も、配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)、パートナー若しくは交際相手である者又はあった者に対する身体的、精神的、経済的又は性的な暴力行為を行ってはならない。 いわゆるDV(ドメスティック・バイオレンス)を禁止する規定です。DVには、身体的暴力(殴る・凶器を用いた脅し)、精神的暴力(暴言・無視)、経済的な制限(生活費をわたさない・仕事の制限)、性的な暴力(性行為や中絶の強要)などの行為があります。 14ページ目 パートナーとは、例えば、同性同士で婚姻制度が適用されない場合などを想定しています。明石市においては、パートナーシップ・ファミリーシップ制度を設け、互いを人生のパートナーまたは家族として尊重し、継続的に協力し合う「パートナーシップ関係」であることを表明した2者からの届出を受理したことを公に証明しています。 4 何人も、性自認又は性的指向の公表を本人に対して強制し、又は禁止してはならず、かつ、本人の同意なく性自認又は性的指向を暴露してはならない。 この項は、カミングアウトを強制したり、禁止したりすることを否定するとともに、アウティングを禁止する規定です。「カミングアウト」とは、本人が自分の性のあり方を伝えたい人に伝えたいタイミングで打ち明けることであり、「アウティング」とは、カミングアウトを受けた人が本人の同意がないままに、その人の性のあり方を第三者にばらしてしまうことです。アウティングは、職場、家庭、学校、地域などどこでも起こる可能性があります。よかれと思って先回りして第三者に伝えることは決して許されません。悪意があってもなくても、アウティングという行為には変わりありません。アウティングしないために大切なことは、「すでにだれに伝えているか」「だれに話してもいいか」というカミングアウトの範囲を本人に確認して、それを尊重することが大切です。 第3章 意思決定過程におけるジェンダー平等の推進に向けた基本施策等 あらゆる意思決定過程等におけるジェンダー平等 第9条 あらゆる場における意思決定過程においては、性別等にかかわりなく多様な人が参画できる機会が保障されなければならない。 この条は、第3章の総則的な位置づけとなる規定です。あらゆる場における意思決定については、その過程において、性別等にかかわりなく多様な人が参画できる機会が保障されなければならないことを示しています。特定の人に義務付けているものではなく、あるべき意思決定過程の形を示している一般的な規定として位置付けています。なお、特に具体的に例示できるものについては、第10条以下で個別に規定しています。 15ページ目 2 ジェンダー平等施策の推進に当たっては、性別等にかかわりなく多様な人が参画できる機会が保障されなければならない。 ジェンダー平等の推進に係る施策への参画とは、意思決定の場への参画に加え、例えば市が実施する家事・育児イベントや研修会への参加、防災訓練への参加など幅広い分野があります。この条では、意思決定の場だけでなく、これらの様々な施策に多様な人たちの参画を得ながら、ジェンダー平等を推進する必要があることを示しています。 特別職 第10条 市長は、定数が2名以上である特別職(地方公務員法(昭和25年法律第261号)第3条第3項第1号に掲げる職のうち、市長が選任又は任命の権限を有するものをいう。)の選任又は任命に当たっては、当該特別職を占める者が男女同数(当該特別職の定数が奇数であるときは、男女の人数の差が1人であることをいう。)となるように努めるものとする。 この条例でいう特別職とは、地方公務員法に掲げる職のうち、市長が選任又は任命の権限を有するものをいい、具体的には以下の者を指します。 (定数が2名以上)副市長、教育委員会委員、公平委員会委員、監査委員、固定資産評価委員会委員、農業委員会委員 (定数が1名)教育長 これらの職には、市における重要事項の意思決定を実質的に行う役割があり、定数が2名以上の場合は、ジェンダーバランスに配慮することが重要であるという考え方を示すものです。もちろん、市民のために重要な役割を担う特別職に関しては、その適性や能力、意欲が最優先であることは大前提であり、実際に各根拠法でそのことが規定されています。それらを踏まえた上で、選任や任命について判断する必要があります。また、様々な事情でこの規定を満たすことが難しいケースも想定されることから、努力義務規定としているところです。 市職員 第11条 市長等は、職員の採用に当たっては、性別等にかかわらず多様な人材が採用試験又は選考を受けられるように必要な施策を講じなければならない。 16ページ目 この条は、市職員における規定であり、多様な考え方を市の施策に取り入れるためにも、市職員のジェンダーバランスは大切であると考えています。この項は採用に関する規定であり、採用時点で性別の比率に偏りが大きいと、その後意思決定にかかわる世代になったときの偏りにつながります。採用においては、地方公務員法第15条において能力の実証に基づくことが求められており、この規定では採用の前提として、性別等にかかわらず多様な人たちが採用試験等を受けられるような取組をすることを市長等に義務付けています。具体的には、多様な人たちに参加してもらいやすいオンライン説明会の開催、エントリーシートにおける性別欄の削除などに加え、個別のニーズに対する配慮を行うなど既に実施しているものもあり、今後もその時々のニーズに合わせて、配慮を続けていきます。 2 市長等は、職員の管理職又は監督職への昇任に当たっては、性別等にかかわらず多様な職員が昇任を希望できるようにするために必要な職場環境の整備等を行うとともに、能力の実証に基づいた上で、管理職又は監督職に昇任する職員の性別の比率になるべく偏りが生じないよう必要な配慮を行わなければならない。 性別等にかかわらず多様な職員が市における意思決定過程へ参画するためには、管理職のジェンダーバランスを図る必要があります。例えば、現在、市職員については、意思決定にかかわるポジションである管理職が男性優位となっている現状があり、管理職に至る前段階の監督職(係長級)を含めて、女性の登用が少なくなっています。まず現在の管理職の働き方を見直し、多くの人がなろうと思える管理職像を築くとともに、職場環境や制度の見直しを図ることで、管理職、監督職へのチャレンジを促進することが必要です。例えば、慢性的な時間外勤務の軽減、育児休業から復帰する際のフォローアップ研修、管理職の時短勤務などが挙げられます。さらに、採用と同じく能力の実証を遵守の上、昇任する職員の性別になるべく偏りが生じないよう配慮するとしています。「なるべく」という表現はこの後の条文にも用いていますが、能力、適性などを鑑み、できる範囲で可能な限りという趣旨を示しているものです。実際には適性がある職員すべてが昇任できるわけではありませんが、能力実証の上で様々な要因を検討する過程で、性別の比率についても配慮しようというものです。このことで、将来的に管理職、監督職のジェンダーバランスが図られ、より多様な考え方を市の施策に取り入れていくことが期待されます。 ※管理職:課長級以上(次長級、部長級、理事級を含む) ※監督職:係長級のこと。ここの性別等の比率に偏りがあると管理職のジェンダーバランスが図れない。 17ページ目 審議会等 第12条 市長等は、審議会等(地方自治法(昭和22年法律第67号)第138条の4第3項の規定により設置する附属機関その他の審議会、検討会等(その構成員の全部又は一部に市民が含まれるものに限る。)をいう。次項において同じ。)の委員を選任する場合は、性別等の比率になるべく偏りが生じないよう配慮するなど多様な委員構成となるように努めるものとする。 審議会等は、比較的少人数の固定されたメンバーで、特定の課題について詳細な検討を行うために設置されるものであり、審議会等において審議された結論は政策等の策定に当たって大きな影響を持つとされます。   この条例では、上記記載の審議会等の性質及び市政への市民参画の観点から、構成員に市民が含まれる審議会等の委員においてジェンダーバランスを図ることを規定しています。   なお、市民参画条例では具体的には男女比率が示されていますが、この項では、多様性の観点から性自認等も考慮することを理念として示す意図で、「性別等」として規定しているところです。 2 審議会等の委員の構成その他の必要な事項については、別に条例で定める。 明石市においては、明石市市民参画条例において、「審議会等の委員の選任等」に係る規定が定められています。この項は当該規定とこの条例を関連付けるためのものです。 ≪参考≫明石市市民参画条例(平成23年条例第1号) (審議会等の委員の選任等) 第12条 市長等は、審議会等手続を実施しようとするときは、次に掲げる基準に従い、審議会等の委員を選任するよう努めるものとする。 (1) 委員の年齢及び居住地域の構成、在職期間、他の審議会等の委員との兼職状況、男女の比率等に配慮し、市民の幅広い意見が反映されるようにすること。 (2) 委員の男女別の数は、そのいずれもが委員総数の4割を下回らないようにすること。 (3) 選任される者の多様性に配慮した上で、幅広い分野の中から適切な人材を選任すること。 (4) 委員10人ごとに1人以上は、障害者(明石市障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮らせる共生のまちづくり条例(平成28年条例第5号)第3条第1号に規定する障害者をいう。)の委員とすること。 18ページ目 (5) 委員数は、20人以内とすること。ただし、法令に定めのある場合その他特別な事情がある場合は、この限りでない。 (6) 委員総数の2割以上は、公募による市民の委員とすること。ただし、法令により委員の構成が定められているときその他公募の委員を選任しないことについて正当な理由があるときは、この限りでない。 2から3 (略) 政治分野 第13条 市長は、政治分野における男女共同参画の推進に関する法律(平成30年法律第28号)の規定に基づき、必要な施策を実施するよう努めるものとする。 2018年に「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」が制定されており、同法において地方公共団体は、政治活動の自由及び選挙の公正を確保しつつ、政治分野における男女共同参画の推進に関して必要な施策を策定し、及びこれを実施する責務を有するとされています。その他実態調査や情報収集、啓発活動、環境整備、ハラスメント対応、人材育成などが同法で定められており、この条例において新たな内容を定めることはありませんが、これらの事項にしっかり取り組む姿勢を示しています。 事業者 第14条 市長は、事業者において、性別等にかかわりなく多様な人材が管理職、役員等の指導的立場に就くことを促進するために必要な施策を実施するものとする。 市職員等と同じように、事業者においても性別等にかかわらず誰もが働きやすい環境が整えられなければならず、また同様に事業者内の意思決定においてジェンダーバランスが図られることが必要です。これらについては、事業者だけでなく市にとっても重要なことであり、ジェンダー平等について事業主の理解促進を図る取組を実施するなど、市が積極的に事業者を支援することも必要です。例えば、女性リーダーを育成するための事業者向けセミナーや事業主などに対するジェンダー平等研修を市が実施するなどの施策が考えられます。 19ページ目 協働のまちづくり推進組織 第15条 市長等は、協働のまちづくり推進組織(明石市協働のまちづくり推進条例(平成27年条例第33号)第17条第1項に規定する協働のまちづくり推進組織をいう。)において、性別等にかかわりなく多様な人材が意思決定過程に参画することを促進するために必要な支援、啓発等を行うものとする。 地域における意思決定機関は様々ですが、明石市においても、例えば市内小学校区ごとに組織されている地域まちづくり協議会などでは、会長の多くが男性です。   この条では、地域における意思決定においてもジェンダーバランス等に配慮できるよう、市が支援、啓発することを示しています。   例えば、現状であれば、地域の女性リーダーを育成するための研修を実施することなどが考えられます。 ≪参考≫明石市協働のまちづくり推進条例  (協働のまちづくり推進組織の認定) 第17条 市長は、次に掲げる要件のすべてを満たす市民活動団体を協働のまちづくり推進組織として認定することができる。  (1) 特定の小学校区を基本的な活動範囲とすること。  (2) 地縁による団体のほか、分野型市民活動団体等の多様な主体が、運営及び活動に参画していること。  (3) 民主的で開かれた運営が行われ、その方法が規約に定められていること。  (4) 事業や運営を計画的に行っていること。  (5) 事業計画、予算、決算、会計処理等に係る資料を公開することにより、運営の透明性を確保していること。  (6) 運営及び活動に参画できるものを特定の個人又は団体に限定していないこと。  (7) 正当な理由なく、市民が運営及び活動に参画することを拒むものでないこと。  (8) 代表者及び役員が、その構成員の意思に基づき、民主的に選出されていること。  (9) 特定の個人又は団体の利益に寄与することを目的としないこと。 2 前項の規定による認定は、一小学校区について一団体に限り行うものとする。 3 第1項の規定による認定を受けようとするものは、規則で定めるところにより、市長に申請しなければならない。 防災及び災害分野 第16条 市長等は、防災及び災害対応に係る取組において、性別等にかかわりなく多様な市民の参画を得るために必要な施策を実施するものとする。 20ページ目 防災については、平常時、災害発生時、復興時などの各段階において、ジェンダーの違いにより生じている課題が多く指摘されており、実際、東日本大震災の発生後には、避難所における女性への役割分担の固定化や性暴力の増加、男性に比べて多い災害関連死などの問題が明らかになりました。例えば避難所では、夜泣きや授乳に対応できる専用スペースの確保やトイレ・洗濯物干し場の配置など、女性や乳幼児など多様な方に配慮した運営が求められます。また、災害時には、乳幼児や介助・介護が必要な高齢者や障害者のいる世帯など、平常時から脆弱な世帯において影響が深刻化する傾向があり、そのケア者(多くが女性。ヤングケアラーの場合もあります。)のニーズを踏まえた支援が必要となります。しかし、緊急時の対応が求められる災害関連業務は、男性に役割が集中する傾向があり、結果として様々な意思決定過程への女性の参画が十分に確保されず、男女のニーズの違いなどが配慮されづらい状況にあります。一方で、地域防災計画の作成など防災に関する重要事項を審議する防災会議においては、充て職になっていることから現状では男性委員が多く、また市の防災部局においても男性職員が多いなど偏りが見られるところです。この条では、これらの背景を踏まえて、性別等にかかわりなく多様な市民の参画を得て、そのニーズを把握しながら、防災や災害対応に関する取組を進めることを示しています。具体的には、防災会議の委員に女性を登用することや、市などが実施する防災に係る出前講座に女性に参加してもらうことなどが考えられます。なお、2021年度から2022年度にかけては、防災会議に専門委員を設置し、ジェンダー視点で防災について検討する工夫も行いました。 教育分野 第17条 市長等は、その権限に基づく範囲内で、教育分野に携わる者における性別等の比率になるべく偏りが生じないよう配慮するものとする。 ジェンダーに関する無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)や固定的な性別役割分担意識は、子どもの頃からの経験や周囲の期待等の影響によって築きあげられると考えられており、市民一人ひとりのジェンダー平等意識を醸成するために教育が果たす役割は極めて大きいと言えます。また、子どもたちにジェンダー平等理念を啓発していくためには、学校における意思決定においても性別等にかかわらず多様な者の意見が反映されることが必要です。子どもたちにとって身近な大人である教員の働き方・暮らし方が、 21ページ目 ロールモデルとして子どもたちの性別役割分担意識に影響を与え、将来の魅力的な働き方・暮らし方の選択肢を広げることにつながる可能性もあるからです。一方で、学校運営における意思決定において一定の権限を持つ立場の教員は、まだまだ男性が多い現状があり、さらに、市立小中学校等の教職員の人事権が都道府県教育委員会にあるという現状もあります。これらの状況を踏まえ、市が採用する教職員(スクールサポートスタッフや特別支援教育指導員などを含みます。)における配慮などできることは限られますが、子どもたちに大きな影響を与える教育分野の重要性に鑑み、教育分野に携わる者のジェンダー平等に配慮することとしています。 家庭及び社会分野 第18条 市長等は、家庭生活及び社会生活における意思決定過程のジェンダー平等を推進するために必要な支援を行うものとする。 この条では、家庭生活や社会生活において意思決定過程のジェンダー平等を推進するために、必要な支援を市長等が行うことを示しています。社会生活については、具体的に行政、事業者、地域における条の中で述べているところです。また、家庭生活については、家庭における一部の構成員だけでなく、すべての構成員の意思が尊重されたうえで、意思決定が進められることが望ましいと考えています。家庭内での意思決定に当たっては、その前提として、家事、育児、介護などの知識や実践が必要となる場合もあり、市が支援することができる場面もあります。あくまで、ジェンダー平等、特に「その個性及び能力を十分に発揮できる状態」という部分を重視し、啓発等を含め、必要に応じた支援を実施していきます。 22ページ目 第4章 その他ジェンダー平等の推進に向けた基本施策 防災及び災害分野における施策 第19条 市長等は、性別等にかかわりなく地域の防災及び災害対応における活動に関わることのできる人材の育成その他のジェンダー平等の視点に立った防災及び災害対応に係る施策を実施するものとする。 第16条でも述べましたが、避難所運営など地域の防災及び災害対応における活動には、性別等を問わず多様な人たちの参画が欠かせません。この条では、防災や災害対応の分野における人材育成をはじめ、多様な人たちに参画してもらい、学んでもらう取組を実施することを示しています。具体的には地域での出前講座での学習、防災訓練での体験などが挙げられます。また、多様な人たちが取組に関わることで、例えば災害時の備蓄品などについてもより多様なニーズに沿った内容に改善される可能性が高まると言えます。 教育分野における施策 第20条 市長等は、性と生殖に関する健康と権利についての教育その他の子どもたちの年齢に応じたジェンダー平等の推進に関する適切な教育を実施するものとする。 ジェンダー平等への理解者を増やし、社会全体に広げるためには、低年齢のときから、保育所、幼稚園、小学校などで、ジェンダー平等について学び、体感する(当たり前にする)ことが重要です。また、家庭や学校での性教育については、ネット上に氾濫する偏った情報から子どもを守り、正しい知識を伝えていく必要がありますが、学習指導要領では、「妊娠の過程は授業で取り扱わない」とされており、学校現場での性教育の範囲には限界があります。市では、2022年度から「ジェンダー教育推進校」の取組を実施し、ジェンダー平等の推進に資する研修プログラム等を採択された小中学校に提供し、必要な研修を受講してもらう取組を進めています。また、幼児期・児童期・思春期の子どもを持つ保護者や学生・若者などを対象に、子どもの心・体・性の成長に合わせたテーマに沿ってセミナー等を開催することも必要であり、併せて取り組んでいきます。 23ページ目 2 市長等は、子どもたち、保護者、教職員等に対し、ジェンダー平等を推進するために必要な研修等を実施し、啓発に努めるものとする。 前項で述べたとおり、市では、ジェンダー教育推進校の取組をはじめとして、様々な研修、講演会などを実施しており、これらを重要なものとして今後も取り組んでいきます。 3 市長等は、教職員等が家庭生活と職場における活動を両立して行うことができるよう、環境整備に努めるものとする。 第17条でも述べたように、教職員等の働き方は、教職員等自身のみならず、それを見て育つ子どもたちにも大きな影響を与えます。先に述べたジェンダー教育推進校の取組においては、教職員の働き方改革の観点から、必要な人的サポートを実施しています。 家庭及び社会分野における施策 第21条 市長は、市民が家庭生活と社会生活を両立できるよう、必要な施策を実施するものとする。 家事、育児、介護をはじめとする家庭におけるケア労働の多くを女性が担っている現状があるなど、性別による固定的役割分担意識などによって、家庭生活と社会生活の両立が困難になる場合があります。この現状を踏まえると、例えば家庭と職場の両立に関するテーマであれば、性別による固定的役割分担意識を解消し、すべての人が働きやすい職場づくりの推進に取り組むとともに、家事や育児に男女問わず参画できることが重要であると言えます。また育児に関しては、男性が育児休業を取りやすい環境も必要になってきます。この条では、上記のような観点から、市が必要な施策を実施することを示しています。具体的には、民間事業者に対する男性育児休業に係る周知啓発や男性の家事育児意識の向上イベントを実施することなどが挙げられます。 職場における施策 第22条 市長等は、市の職員が家庭生活と職場における活動を両立できるよう、多様な働き方を推進するものとする。 24ページ目 2020年以降、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、在宅勤務、テレワーク及びスライド勤務など、以前から提案されていた多様な働き方の導入が一気に広まりました。これら多様な働き方は、新型コロナウイルス感染症への対応のみならず子育てや介護など多様な事情を抱えた職員にとっては、仕事と家庭の両立に有用な手段と言えます。まずは、市がこれらの取組を推進し、その後民間事業者などに広げていくことをめざします。 2 市長は、事業者におけるジェンダー平等を実現するために、家庭生活及び職場における活動の両立に配慮した研修機会を付与するなど、誰もが働きやすい職場環境の整備を支援するものとする。 第6条において事業者の役割を規定していますが、中小企業など独自でジェンダー平等の実現に向けた取組を進めるのが困難な事業者もあります。市は、民間事業者におけるジェンダー平等が進むことを重要なことと捉え、その取組を支援することとしています。 3 市長は、市民が家庭生活と職場における活動を両立できるようにするために、当該両立に必要な制度等を、事業者へ啓発するものとする。 例えば、男性の育児休業等における両立支援等助成金制度など、事業者にとってプラスとなるような制度はいくつもあります。ただ実際には、これらの制度が事業者に十分に周知されていなかったり、制度を知っていても手続に手間がかかり申請に至っていなかったりするケースもあるそうです。これらのことから、市は、事業者に対する様々な啓発において、これら有用な制度についても啓発し、支援につなげていきます。 啓発活動の実施 第23条 市長は、ジェンダー平等に関する市民、事業者、地域団体等の理解を深めるための啓発活動を実施するものとする。 「ジェンダー平等」については、まだまだ言葉自体が分かりにくく、十分に理解が広まっているとは言えません。市では、この条例自体も一つの拠り所として、子どもから高齢者まで、また事業者、地域活動を行っている団体などにも広く啓発していくことが必要と考えています。 25ページ目 また、啓発の際には、わかりやすい媒体を用い、継続して実施していきます。 その他の施策 第24条 市長等は、前条までに規定する施策に加え、あらゆる場におけるジェンダー平等を推進するために必要な施策を実施するものとする。 この条例はジェンダー平等に関する大きな理念を定める条例ですが、前条までに記載のとおり、基本施策を一部定めています。これは、2022年1月から6月に開催された「明石市ジェンダー平等の実現に関する検討会」や2021年度に設置されていた「ジェンダー平等プロジェクトチーム」における主要テーマを例示的に規定したものです。ただし、あくまでも例示にすぎないため、すべての施策を包含しているわけではありません。例示された分野以外についてもジェンダー平等を推進するための拠り所として、この条で包括的な規定を設けています。 26ページ目 第5章 推進体制の整備等 推進計画の策定 第25条 市長は、ジェンダー平等施策を総合的かつ計画的に進めるための計画(以下「推進計画」という。)を策定するものとする。 条例のみで幅広いジェンダー平等に関するテーマを網羅することは困難であり、また時機に応じた加筆や修正に当たって柔軟性に欠けることから、計画を策定することとしています。具体的には、男女共同参画社会基本法に基づく市町村男女共同参画計画(男女共同参画プラン)をこの条例にも紐づく計画として位置づけ、同計画に基づき、施策を実施していきます。 2 市長は、推進計画を策定し、又は変更するに当たっては、市民、事業者、地域団体等の意見を聴き、当該意見の反映に努めなければならない。 市民ニーズ、当事者ニーズに沿って施策を進めていく観点から、計画の策定や変更については市民等の意見を聴く機会を設け、できる限りこれらのニーズに沿った計画にしていくことを示しています。 3 市長は、推進計画を策定し、又は変更したときは、これを公表しなければならない。 実際に施策を進める際には計画が指針となるため、条例と同様に広く市民に周知する必要があります。このことから計画の公表を市長に義務付けているものです。また、明石市議会の議決すべき事項等に関する条例(平成26年条例第22号)第3条に基づき、推進計画を策定、変更又は廃止しようとするときは、議会への報告を行います。 推進体制の整備 第26条 市長は、ジェンダー平等施策を推進するため、進捗状況の管理を含めた必要な体制を整備するものとする。 条例や計画に基づいて、市が取組を進めるためには、実際に施策を実施する組織体制を整備することが欠かせません。この体制には、進捗状況の管理を行うことも求められます。 27ページ目 2 前項に規定する必要な体制に係る事項は、推進計画において定めるものとする。 必要な体制は、時代や状況において変化するため、計画で定めることとしています。 28ページ目 【参考】明石市ジェンダー平等の実現に関する検討会における検討の経緯 2022年1月から6月にかけて、「明石市ジェンダー平等の実現に関する検討会(以下「検討会」といいます。)」を設置し、ジェンダー平等を推進するための方策や取組について議論しました。 1 検討会の開催経過 2022年1月28日(金) 第1回検討会    3月11日(金) 第2回検討会    3月17日(木) LGBTQ+当事者等との意見交換    3月28日(月) 障害当事者との意見交換    4月14日(木) 第3回検討会    6月 3日(金) 第4回検討会(最終)    7月 3日(日) 提言書の受取 2 検討会の構成   学識経験者(4名)、弁護士(2名)、事業者(2名)など10名の委員により構成し、様々な立場の方々のご意見を伺いました。 3 検討会における主な検討事項  @女性の意思決定過程への参画   あらゆる意思決定の場面に女性が参画するために必要な事項について、検討しました。  A審議会等における委員の多様性の向上   審議会、検討会などで、多様な当事者が意思決定過程に参画できるよう、審議会等の委員の選任基準を定めている明石市市民参画条例を見直し、委員の男女比率や障害当事者の参画を促進することを検討しました。  Bジェンダー平等を掲げる新たな条例の制定   ジェンダー平等を実現し、持続的に取り組むための指針として、総合的かつ包括的な条例の制定について検討しました。  C諸外国の例に基づいた選挙制度の考察   諸外国の例を参考にして、ジェンダーバランスを重視した選挙制度につき考察しました。