明石市ジェンダー平等の実現に関する検討会 提言書 〜ジェンダー平等社会の実現に向けて〜 2022年(令和4年)7月3日 1 はじめに                                   ジェンダー平等については、SDGs(持続可能な開発目標)における最重要課題と位置付けられており、各国でその実現に向けた取組が加速しています。また、ジェンダー平等と女性及び女児のエンパワーメントは、SDGsを達成するための前提条件であり、あらゆる政策立案にジェンダー視点が取り入れられる「ジェンダー主流化」は、SDGsを実現するための実施原則であると言われています。  しかしながら、日本のジェンダー平等実現のための取組は、後れを取っているのが現状であり、例えば、世界経済フォーラムが2021年3月に公表した各国における男女格差を測るジェンダーギャップ指数は、世界156か国中120位と先進国の中で最低レベルでした。とりわけ、政治参画及び経済参画の分野でスコアが低くなっており、ジェンダー平等に向けての取組は喫緊の課題となっています。  「明石市ジェンダー平等の実現に関する検討会」は、ジェンダー平等の実現に向けて必要な制度及び取組を検討するために、2022年1月に設置されました。  私たちは検討会の委員として、明石市においてジェンダー平等を実現するために必要な事項について、これまで4回にわたり検討会を開催し、議論してきました。  前述のとおり、日本では特に政治参画及び経済参画に係るジェンダーギャップ指数が低いことに鑑み、本検討会では、主に様々な意思決定過程におけるテーマについて議論を進めてきました。また、意思決定過程にはジェンダーバランスのみならず多様な視点の反映が必要であることから、検討会では多様性の観点も踏まえた検討を行ってきたところです。  この度検討会の各委員の意見をとりまとめましたので、その内容について次のとおり提言します。 2 検討に至った背景                               明石市は、SDGsの達成に向けて、優れた取組を行う自治体として、2020年7月に国(内閣府)から県内初となる「SDGs未来都市」に選定されました。  また、同年4月には、LGBTQ+(性的マイノリティ)の当事者でもある専門職員を配置し、当事者が抱える生きづらさや困難に寄り添いながら、性の多様性に関する理解を広めるための様々な取組を進めてきました。  SDGsにおいて「ジェンダー平等の実現」が17の目標を実現するための実施原則とされていること、また男女という枠にとらわれず性の多様性に関する理解を広めてきたこれまでの取組を踏まえ、明石市では、「ジェンダー平等」というフレーズを用い、生理の貧困に目を向けたきんもくせいプロジェクトをはじめ、ジェンダー平等を推進し、性別などにかかわらず誰もがその個性と能力を発揮し、いきいきと活躍できる社会の実現を目指した取組を進めてきたところです。  きんもくせいプロジェクトを通じて、男性中心の視点だけでは見落としがちなテーマがあるという気づきが得られたことをきっかけに、2021年8月に庁内公募により選任した男女各7名の職員からなるジェンダー平等プロジェクトチームが立ち上がり、ジェンダー平等の推進を具体化するための方策が検討されました。その中で、市の施策検討の場面だけでなく、社会の様々な分野において、意思決定過程に参画する人の性別に偏りがある現状が、社会全体のジェンダー平等を実現する上での大きな課題であることが再認識され、意思決定過程が同プロジェクトチームにおける重要なテーマの一つに位置づけられました。  また、やさしいまちづくりの包括的指針として、同時期に検討が進められてきた「すべての人が自分らしく生きられるインクルーシブなまちづくり条例(略称:あかしインクルーシブ条例)」においては、意思決定過程における「多様な当事者の参画」が基本方針とされ、参画した人がともに考え、みんなで一緒に「誰一人取り残さないインクルーシブなまちづくり」を進めることを目指してきました。  このような経緯により、市のみならず、社会のあらゆる分野において、特定の性や属性に偏ることなく多様な人びとが意思決定過程に関われるよう、今後明石市が取り組むべき施策を具体的に検討することを目的として、有識者らで構成する「明石市ジェンダー平等の実現に関する検討会」を設置し、議論を進めることとされました。 3 検討内容等                                (1) 検討に当たっての基本的考え方 @ジェンダー平等とは  市民一人ひとりが、社会的・文化的に形成された性別等(性別、性自認、性的指向及び性表現をいいます。)にかかわりなく、等しく権利、資源、機会、責任を持ち、その個性及び能力を十分に発揮できる状態をいいます。そのためにはすべての人が性別等による差別的取り扱いを受けることなく、また性別等に起因する暴力が撤廃される必要があります。 A意思決定過程におけるジェンダー平等の実現  社会におけるジェンダー平等を実現するには、意思決定過程におけるジェンダーバランスが不可欠です。ジェンダーバランスが図られることによって、性別等にかかわりなく誰もが意思決定に参画できる機会が保障されていることが実感でき、さらには見落としていた視点や論点が可視化され、ジェンダー平等の実現に向けて必要な取組が明確になると言えます。  また、多様な人びとが意思決定に参加すると、多角的な視点から政策課題を検討することができ、同質グループによる意思決定の偏りやリスクが解消され、新しいアイデアや提案によってイノベーションが起きやすいと言われています。すなわち、意思決定の場に多様性を反映させることが、より良い意思決定につながると言えます。  しかしながら、とりわけ日本では、人口の概ね半分を占める男女の比率ですら、特に政治や経済分野におけるギャップが大きい現状が続いているところです。  多様な人びとが意思決定の場に参加する前提として、意思決定過程におけるジェンダー平等を実現することが重要です。  検討会においては、明石市におけるあらゆる意思決定の場においてジェンダー平等を実現するために、必要な制度や取組について検討します。 B多様な属性の人びとの意思決定過程への参画  前述のとおり、意思決定の場に多様性を反映させるためには、多様な人びとが意思決定の場に参画することが求められます。  一言で「多様性」といっても、男性も女性もそれぞれ多様であり、障害の有無や国籍により全く異なる経験や視点を持ち、性自認、性的指向、性表現がみんな同じわけではありません。また、障害者もそれぞれが多様であり、障害の種別や程度により異なるニーズを持っています。  一人ひとりの多様性や交差性に目を向けながら、これまで意思決定過程に参画できなかった多様な属性の人びとが参加しやすくなるための仕組みが必要です。  検討会においては、性別等を端緒として、障害の有無、将来的には年齢、国籍など、多様な属性の人びとが意思決定過程に参画することができるよう、必要な施策等について検討します。 C当事者ニーズの確認  明石市では、2022年4月に「すべての人が自分らしく生きられるインクルーシブなまちづくり条例」が施行されました。同条例においては、それぞれの多様性が尊重され、異なる価値観を認め合うことが大切ということを大前提とし、また、意思決定過程における「多様な当事者の参画」を基本方針として、参画した人がともに考え、みんなで一緒に「誰一人取り残さないインクルーシブなまちづくり」を進めることとしています。  今回、意思決定過程におけるジェンダー平等に向けた検討を進めるに当たっても、多様な属性の人びとのニーズを確認するために、その参画を得る必要があると考えています。  そこで、検討会においては、検討会以外に当事者の意見を聴く場を設けるなど、多様な当事者ニーズを確認する場を設けることとします。 (2) 検討会の開催状況 @ 第1回検討会 2022年1月28日(金) A 第2回検討会 2022年3月11日(金) B LGBTQ+当事者等との意見交換 2022年3月17日(木) C 障害当事者との意見交換 2022年3月28日(月) D 第3回検討会 2022年4月14日(木) E 第4回検討会 2022年6月3日(金) ※提出資料及び議事録は市HPに掲載  https://www.city.akashi.lg.jp/seisaku/sdgs/gender_byodo.html (3) 主な検討内容 @ 女性の意思決定過程への参画 A 女性副市長の登用 B 市職員の女性管理職等割合の引き上げ C 審議会等委員の多様性の向上 D ジェンダー平等を掲げる新たな条例の制定 E 議会における意思決定及び選挙への参画 4 女性の意思決定過程への参画                          DEI(ダイバーシティ・エクイティ注1)・インクルージョン)は、「経済発展が実現した後の贅沢」ではなく、社会が発展していくための必要戦略です。  私達を取り巻く自然・社会環境は、想像を遙かに超え変化していき、その変化を乗り越え生き残るためには、画一的な発想では限界があり、多様な視点で柔軟に対応することが不可欠です。  現在の社会システムは、基本的には単一のジェンダー(異性愛者でシスジェンダー注2)の男性)により作られたもので、多様なジェンダーの価値観や考えは十分に反映されてこなかったと言えます。  多様なジェンダーアイデンティティがあることを考えると、「女性」にだけに注目すべきではないとは思いますが、日本においては、ジェンダーの多様性についての理解が一般的には未だ十分でないことなどから、まずは、人口の約半数を占める女性の意見が反映される仕組みづくりから着手するのが現実的だと考えます。  その観点から、以下のとおり提案します。 (1) あらゆる場において女性の参画を保障する制度を構築すること。 (2) 組織や会議の中で、構成員が発言でき、アンコンシャス・バイアスが働かないようなルールを作ること。 (3) あらゆる場において女性が活躍できる環境を整備すること。 ・育児、介護、家事に関する支援制度 ・偏見及びアンコンシャス・バイアスの意識化と改善 ・女性の職員、従業員等に対するリーダーシップ教育 ・先輩女性が助言するメンター制度 など 注1)公平(Equity):一律に等しい扱いをすることではなく、個人差をきちんと考慮して、不利な立場におかれている人には、適切な対応や支援を提供することで、活躍できる機会が得られるようにすること 注2)シスジェンダー:生まれたときに割り当てられた性別と性自認(自分の性をどのように認識するか)が一致している人のこと 5 女性副市長の登用                             平成28年、子育て、保育、学童、介護、結婚、貧困、就業、及び、市役所内部の取組などの分野において、女性の活躍推進のための施策事業にかかる提案等を行うことを目的に「あかし女性の活躍推進会議」が設置されました。同会議では、精力的に検討をし、同年10月に「女性の活躍推進に向けた政策提言〜一人ひとりが活躍できる社会の実現に向けて〜」がまとめられました。  同提言においては、同会議の目的の一つである市役所内部の取組に関して、「明石市役所における先導的な取り組みの推進」というタイトルを設け、その中で、市の政策、方針決定に男女が共に関わることができるよう、外部からの人材登用も視野に入れ、副市長、理事等に女性の登用を行うことが提案されました。  しかしながら、同提言から5年余りが経過しました現在においても、いまだに副市長に女性の登用がなされていません。  政策方針決定に女性の参画は重要であり、仮に人材が育っていないのであれば、外部登用、全国公募も含め検討し、女性の副市長誕生に向けて施策を進めることを、本検討会においても再度提案します。 6 市職員の女性管理職等割合の引き上げ                     社会のあらゆる場において意思決定過程におけるジェンダー平等を推進するには、まず明石市で意思決定過程におけるジェンダー平等を推進することが喫緊の課題であり、具体的には管理職等の女性比率を高めることが必要です。  明石市におけるキャリアアップに係るジェンダー平等については、以下の課題があります。 (1) 35歳までは役職にそれほど差はないが、36歳〜40歳の職員において、男性が係長18%、主任33%であるのに対し、女性は係長3%、主任6%と差が開く。 (2) 管理職への昇進は原則試験によるが、近年の受験率は女性が男性の1/2以下となっている。(2020年度の受験率は、男性39.6%、女性14.9%) (3) 明石市特定事業主行動計画における目標数値は、2019年4月時点で女性の監督職(係長級)比率約23%、女性の主任級比率約43%となっているが、監督職については、当該目標数値を満たしていない。  上記は2021年4月現在のデータであり、2022年4月においては、若年層における女性職員の管理職・監督職等への積極的な登用が見られ、上記(3)を中心に改善の兆しが見えているのは喜ばしいことです。しかしながら、同年代の男性職員に比べると、まだまだキャリアアップに差があるのは事実であり、今後もより一層のジェンダーギャップの解消に努めていただくことが必要です。そこで以下のとおり提案します。 (1) 女性管理職の割合を引き上げること。 (2) 明石市特定事業主行動計画に定める女性監督職比率を遵守すること。 (3) 女性職員が積極的に管理職・監督職にチャレンジできるようにするため、必要な支援や環境整備を行うこと。 (4) 男女ともに分け隔てなくキャリアアップができるようなキャリアパスを進めること。 (5) 男女ともに働きやすい職場として、時間外勤務を削減するとともに、特に男性が育休を取得しやすい職場づくりを進めること。 7 審議会等委員の多様性の向上                          審議会等は、比較的少人数の固定されたメンバーで、特定の課題について詳細な検討を行うために設置されるものであり、審議会等において審議された結論は政策等の策定に当たって大きな影響を持ちます。  すなわち審議会等におけるジェンダーバランスをさらに促進することで、意思決定過程におけるジェンダー平等の推進につながります。  また、ジェンダーに係る問題の一つに、様々な要素が絡み合う複合差別の問題があります。特に女性であり、かつ、障害者である者については、様々な場面においてこれまでとりわけ苦しい立場に置かれてきました。  本検討会では、ジェンダー平等の検討において、性差のみならず交差性やインクルーシブの視点を持つことが大切であると考え、検討を進めてきました。  そこで、多様な当事者が意思決定過程に参画することの重要性、かつ、障害当事者がこれまで排除されてきた歴史を踏まえ、障害当事者が様々な意思決定過程に参画することを保障されることが重要であると考えます。  以上のことから、審議会等委員の多様性の向上について、以下のとおり改正を提案します。 (1) 審議会等委員の選任基準について、以下のとおり明石市市民参画条例の改正を提案します。 @男女別割合の下限を「3割」から「4割」に引き上げる。 A委員10人ごとに1人以上の委員を障害者とする。 B多様な委員構成を求める表現を追記する。 ※Aについては、障害者の全人口に占める割合7.4%(2018年厚生労働省推計)と世界における障害者の割合が人口の約15%にのぼるとされること(国際連合広報センターwebサイトによる)を踏まえています。 ※Aについては、障害特性の違いなど障害者の種別や個別性に配慮し、また「以上」とされていることを踏まえ、適切かつ幅広い運用を行うよう求めます。 ※@Aについては、条例の改正後に委員の改選があった審議会等について適用することとします。 (2) 審議会等委員のジェンダーバランスを促進するために、以下のとおり提案します。 @充て職の場合であっても、代表以外の人選を可能とすること。 A枠を増やすことが可能であれば、同じ団体からジェンダーバランスを図ったうえで2人推薦してもらうこと。 8 ジェンダー平等を掲げる新たな条例の制定                   ここ数年全国的にも、ジェンダーに対する意識は、驚くべきスピードで上がってきました。ジェンダー平等を達成するという方向性が打ち出され、またそれに沿った政策も進んでいます。しかしながら、「女性活躍」や「男女共同参画」という言葉で表現されていたころから、実態はほとんど変わってこなかったというのが現実です。  一方、ジェンダー平等の実現に係るテーマは非常に多様であり、全市的に取り組むためには、これら多様なテーマに横串を刺すための包括的な指針が必要です。また、持続的に取組を進めるためにも、その指針は強固なものである必要があります。  これについては、全国の市及び区の61.3%が男女共同参画に関する条例を制定し、条例を指針としていますが、明石市においては、同様の条例の制定に至っていない状況です。  そこで、ジェンダー平等を実現し、持続的に取り組むための指針として、総合的かつ包括的な条例を制定し、市長等、市議会、市民等の機運を高めるとともに、ジェンダー平等に係る施策を全市的に実施するための拠り所としていただくことを提案します。 【条例に盛り込むべき内容案】 ・意思決定過程におけるジェンダー平等の推進と実質的な参画保障 ・ジェンダー主流化の視点 ・インクルーシブな理念、多様性の重要性(関連条例との関係を明示) ・防災、教育、家庭社会、職場など様々な分野においてジェンダー平等を進めるための環境整備 ・計画との連動、推進体制の充実 9 議会における意思決定及び選挙への参画                   議会は、市民の代表者たちが集まる場として、数多くの重要な権限を持っています。様々な重要政策は議会の議決により決定されることから、特に市民への影響が大きいといえます。  議会が重要な権限を持っている理由は、議会が多様性に基づく公開と討議を行う機関であるからです。多様性に基づく議会であることは、地方自治のあるべき姿といえます。  本検討会では、諸外国の事例を参考にして、多様な属性の人びとが議員に選出され、議会における意思決定へ参画できるよう、議論を進めてきました。議論の過程においては、議会における意思決定への参画の前に、誰もが投票に参画できることの重要性や課題も明らかになったところです。  活発な議論が行われたものの、法的な課題も多く、日本の地方議会制度に踏み込むには至りませんでしたが、選挙制度改革を含む検討会で議論された事項として以下のとおり提案します。 (1) 目指すべき議会のあり方 ・市民の多様なニーズや利害関心を汲み取る能力 ・市民の声に応答するための政策決定や予算配分 ・民主的で開かれた議会活動による政治への関心(投票率を含めて)の向上 ・社会の鏡のような代表性(市民の代表の属性に著しい偏りがない)の確保 (2) 近年の国や他自治体における取組(参考)    地方議会におけるジェンダー平等を推進するために、近年以下のように取組が進んでいます。 @政治分野における男女共同参画の推進に関する法律の制定及び改正  平成30年5月に成立したこの法律においては、基本原則として、男女の候補者の数ができる限り均等となることを目指すこと等を定めており、政党等は男女の候補者数の目標を設定する等自主的に取り組むよう努めるものとされています。  令和3年6月に成立した改正法においては、政党等は、「目標数値の設定」「候補者の選定方法の改善」、「候補者となるにふさわしい人材の育成」、「セクハラ・マタハラ等への対策」等にも自主的に取り組むよう努めるものとされました。また、国及び地方自治体は、セクハラ・マタハラへの対応を始めとする環境整備等の施策を強化することや、模擬議会や講演会の開催等により人材の育成に資する施策を講ずるものとされました。  とりわけ地方自治体及び地方議会には、環境整備、人材育成、セクハラ・マタハラ防止の3点において責務が課せられた点を踏まえ、具体的制度構築が求められています。 A地方議会におけるハラスメント防止条例の制定等  議会におけるハラスメントについては、政治倫理条例で規定する政治倫理基準において定めているものが多いですが、平成30年ごろから単独で条例を制定する自治体が増え始めています。令和4年5月末時点で、10以上の自治体において、議会におけるハラスメントの防止等に関する条例があることが確認できます。内閣府が作成した政治分野におけるハラスメント防止研修教材を活用したハラスメント防止研修も広がりつつあります。 B女性の政治参画を促す取組事例  各地方議会において、女性の政治参加を促すために女性模擬議会や女性参加者による地域課題を掘り起こす会議などが開催され、また地域における女性リーダーを育成する等の目的でセミナーが実施されています。 (3) 諸外国の地方選挙制度を踏まえた選挙制度の改革案及び課題  法律に基づき上記取組を明石市においても実践することは当然として、さらには議会における男女均等の参画を保障するために選挙制度に踏み込んだ改革を検討することも必要と思われます。そこで検討会では諸外国の選挙制度を踏まえ、考えられる地方選挙制度の改革案及びその課題について、以下のとおり示します。 @ 選挙制度の改革案 【A案】(フランス県議会ペア制度をベース)   2名が1組となり立候補。有権者は個人ではなく組(ペア)に1票を投じる。当選は得票の多い順とする。   ※多様性を確保することが目的のため、ペアの組み合わせは異なる属性を要件とする。性別(性自認)、障害、年齢などが想定しうる。 【B案】(台湾地方議会の女性定数保障制をベース)   女性議員を一定数確保するために、4人に1人は女性が当選することを保障する。  (例)    1.男性 2.女性 3.女性 4.男性 (女性が2人いるので、この4人が当選)     5.男性 6.男性 7.男性 8.男性 9.女性 (女性が誰もいないので、次点の女性(9位)が繰り上げ当選) 【C案】(ルワンダ式をベース)   障害者枠を設置するとともに、男女の議席を保障するために、男性候補者リストと女性候補者リストのそれぞれに投票。   ※比例区と小選挙区を別枠でとらえているように、選挙区を地理的な概念から解放したうえで、選挙区(リスト)ごとに1票と解釈する。 【D案】(C案をベースとした発展案)   障害者や女性などの選出が促進されるように、より包摂的な名簿の作り方を工夫する。 A 改革案に係る課題  ・前提として、法的に結果の平等性にまで踏み込めるかどうかが課題である。  ・ペア制度については、ペアが探せなければ立候補できないため、被選挙権を侵害する可能性が高い。(A案)  ・ペアのうち一人が辞職したり、亡くなったりした場合の補欠選挙など、仕組みが複雑である。(A案)  ・票数の多い人が落選し、票数の少ない人が当選するケースが生じ得る。(B案)  ・一人一票制と規定されている公職選挙法第36条に反する恐れがある。(C案、D案)  ・トランスジェンダーやノンバイナリーなどのアイデンティティを持つひとを排除しない、参画しやすい仕組みを盛り込む必要がある。(A案、B案、C案)  ・マイノリティ枠として分けて名簿を作るような形ではなく、あくまで包摂的な名簿になるような工夫が必要である。(D案) B 改革案及び課題を踏まえた提案事項  ・必要な法整備の実施   特にC案、D案に示したリスト制の実施に当たっては、一人一票の解釈を緩やかにすることで公職選挙法に抵触しないと解釈することや、そもそも法律は地方自治の本旨に基づいて成り立っているところ、地方自治の本旨に基づかない法律には従わず条例を定めてもいいのではないかと言う議論も成り立つと考えます。こうした議論を踏まえ、実施に向けた法整備を行っていただきたいと考えます。  ・今後の進め方   本検討会においては、上記の課題を踏まえ、それぞれの案のメリット・デメリットについてもさらに精査し、日本の地方議会の選挙に相応しい制度について引き続き議論を深める必要があることを確認しました。 (4) 誰もが投票でき、多様な人びとが立候補できる環境の整備   まずは現行制度において、誰もが投票でき、多様な人びとが立候補できる環境を作り出すため、市選挙管理委員会においては、以下の事項について検討していただきたいと考えます。   ・多様な人が立候補できる前提として、まずは誰もが当たり前に投票できる環境を整備し、投票における障壁を撤廃すること。     具体的な取組例:記号投票の導入、投票人に係る不要な性別欄の廃止 10 環境整備を進めるための取組等                     上記に掲げる事項のほか、提言の取りまとめに当たって各委員から出た主な意見について、以下のとおり示します。 (1) 実質的な参画保障  ・当事者の実質的な参画を保障するために、日常的に当事者のエンパワーメントにつながるよう、当事者や当事者団体をサポートする環境を整備すること。  ・議会や審議会等への参画だけではなく、定期的な意見交換の場を設けること。 (2) 施策の実施に当たっての方向性  ・今の当たり前に目を向け、アンコンシャス・バイアスの打破につながるような啓発を行うこと。  ・性差だけでなく、多様性や交差性の観点が抜け落ちないように施策を進めること。 (3) 市における施策の実施  ・可能な限り、行政委員会委員のジェンダーバランスを図ること。  ・学校行事や生徒指導など教育活動全体の中で、性教育を含むジェンダー平等教育を進めること。  ・地域コミュニティーにおいて、ジェンダー平等に関する意識を浸透させるために、研修、出前講座等を利用した啓発を実施すること。  ・企業においてジェンダー平等に関する意識を浸透させるために、男性が育休を取得した企業に対して助成金を出したり、男性育休の取得に係る先進的な取組を実施している企業の事例紹介をしたりするなど、企業等に対する支援を実施すること。  ・公共調達をはじめとする企業に対する制度の拡充を進めること。  ・男女共同参画センターをはじめとして、様々な関係機関と協働してジェンダー平等の取組を進めること。 明石市ジェンダー平等の実現に関する検討会 委員一覧 会長 みうらまり 上智大学 教授(法学部) 副会長 えとうとしあき 大正大学 教授(社会共生学部公共政策学科) 委員 さかしたれいこ 兵庫県立大学 副学長 委員 しんきよん お茶の水女子大学 教授(人間文化創成科学研究科ジェンダー社会科学専攻・ジェンダー研究所) 委員 まさきやすこ 弁護士、元日本弁護士連合会 副会長 委員 つくいすすむ 弁護士、元兵庫県弁護士会 会長 委員 さきのけいこ あかし女性応援ねっと 代表 委員 みきかずひろ コープこうべ第6地区 本部長 委員 おのうえこうじ DPI日本会議副議長 あかしインクルーシブ条例検討会 部会長 委員 くげゆたか 元明石市教育長 ≪参考≫ (1) 議員の多様性を確保するための諸外国の地方選挙制度の事例 @フランス(パリテ原則による「男女ペア候補」制度) ・県(departement)議会:選挙区(canton)毎に男女がペアの代表2人を選出 ・立候補の時から「男女ペア」を一つの単位として出馬 ・有権者25%以上の投票+過半数を得票した男女ペアが当選→過半数得票ペアがなければ12%以上の得票した男女ペアのみで決選投票 ・立候補の方法に法的拘束力があるため当選者においても男女半々(1999年には男性が90.8%であった。) A韓国(パリテ・クオータ併用制度) ・市町村議会:比例代表・中選挙区並立制 ・比例代表拘束名簿に女性候補者を50%以上+奇数に女性を配置 ・中選挙区候補者には全国の候補者のうち30%を女性に(努力義務)+国会議員の小選挙区毎に市町村議会選挙の候補者の最低1人は女性に義務付け。 ・有権者は2票 ・女性議員は30.8%(そのうち7割が比例から当選) B台湾(女性の議席確保制度) ・中選挙区・単記比移譲式投票制度 ・4分の1ルール:選挙区定数が4名以上の選挙区において当選者4名毎に1名は女性になるように保障する。例えば、定数4名の当選者全員が男性の場合には、4位の男性候補者は落選、次点の女性候補者が繰り上げ当選 ・県・市の女性議員は32.1%(6つの大都市は35.8%) Cルワンダ(国政選挙:多様な社会グループの議席確保制度) ・女性議員を最低3割保障 ・若者、障害者枠 ・地域や団体から推薦 ・国会の女性議員は61.3% (2) 当事者との意見交換の主な内容  @LGBTQ+当事者等との意見交換(2022年3月17日(木)実施)  □意思決定過程への参画全般について  ・意思決定過程に参画するためには、その場にいなければならない。LGBTQ+の人が社会の中で存在を肯定されるという前提がなければ、意思決定に参画しようがない。  ・地域活動、町内活動、学校、民間企業等において、LGBTQ+当事者と名乗って、意思決定過程に参画するのは困難である。  □行政について  ・担当者の熱意に委ねるのでなく、安定して進めるため、制度として確立させる必要がある。  ・多様性に関する取組は、部署ごとではなく横断的に進めることが必要。意思決定過程に多様性を反映するための制度自体も横断的なものが必要。  □選挙について  ・選挙時に投票しやすくすること、投票しづらさを感じないようにすることが大切である。  □クオータ制について  ・課題はあるが、クオータ制には賛成である。  ・現状、議会の中にいない属性の人びとが立候補しようと思える仕組みになっていない。その仕組みを検証することは、クオータ制などの制度を作ることと同じぐらい大切である。  ・クオータ制をとったとしても、自分の意見を言える人達が立候補することが必要だと思う。  ・トランスジェンダー 注3)やノンバイナリー 注4)の人については、属性による精神的な負担を感じずに立候補できることが大切である。  ・当選確率が高いと思う属性に、自称トランスジェンダーが立候補する懸念はある。  ・立候補するためにカミングアウトした人へ、激しいバッシングが起きる懸念がある。  ・クオータ制を進めようとすると大きな反対が出ると思う。理由やメリットを明確にして、かつ、それを発信していくことが重要。  □その他  ・男性・女性・LGBTQ+と区分するのは誤った認識である。男性も女性もそれぞれ多様である。  ・人間の性別が女性と男性の2種類だけで定義されている現状は、しんどくて何とかしてほしいと思っている。不要な性別分けや性別欄のようなものは無くしていく方向になっていると思うが、同時に女性がどれくらいいるのかをはっきりとさせる必要がある場合もある。両立させるためにどうすればいいのか、もっと考えなければいけない。 注3)トランスジェンダー:生まれたときに割り当てられた性別と性自認が異なっている人のこと 注4)ノンバイナリー:自身の性自認・性表現(服装や髪形、一人称など性別についての表現。)に「男性」「女性」といった枠組みをあてはめようとしない人のこと  A障害当事者との意見交換(2022年3月28日(月)実施)  □意思決定過程への参画全般について  ・意思決定過程への参画の前に、日常生活での自己決定が担保されていない現状がある。  ・意思表明をすることが難しい障害者も多く、障害者の意思決定過程への参画については、不十分である。  ・障害者問題を考える審議会等以外については、まだまだ当事者参画が進んでいない。  ・知的障害者については、本人ではなく親が会議に出席する場合が多い。  ・障害者の参画については、形式的な参画にとどまらず、会議で発言するなど実質的なものでなければならない。  □審議会等への参画における配慮について  ・以前に比べると参加しやすい市の会議が増えてきた。発言ルールを予め決めてもらえると発言しやすい。  ・障害者にとって、特定の日時に体調を合わせるのは難しい。web方式が併用できると参加しやすい。  □行政について  ・当事者の意見をしっかりと聴くという姿勢を行政が発信することが大切である。  □選挙について  ・選挙権を行使しやすくするための合理的配慮も大切である。  □クオータ制について  ・クオータ制については賛成。議会や審議会等において障害者の意見を発信できること自体、影響が大きい。  ・クオータ制のような制度はシンボリックなものとして意義はあるが、制度があっても当事者がエンパワーメントされなければ機能しない。団体活動の活性化なども平行して進めていくことが重要。  ・クオータ制については賛成だが、サポート体制が必要。また、必要なサポートがそれぞれ異なるため、健常者だけでサポート方法を決めるのではなく、当事者に相談してほしい。  ・クオータ制を設けるのであれば、「障害者」の定義について、しっかり考える必要がある。よりシビアな状況に置かれている人の声が聴けるような仕組みづくりが必要。  □その他  ・障害者は特別なニーズを持つ普通の市民である。  ・障害者を締め出す社会は弱くてもろい。誰もが通る共通の問題であるという想像力を働かせることが大切である。  ・困難はあるが、まずやってみよう。やりながら考え、手直ししていく方法もある。  ・明石市の障害者団体に期待している。啓発キャンペーンなどを団体に任せてみて、それを通じて帰属意識や主体性を高めてもらうことも大切である。