手話言語を確立するとともに要約筆記・点字・音訳等障害者のコミュニケーション手段の利用を促進する条例 目次 前文 第1章 総則(第1条―第8条) 第2章 手話言語の確立(第9条―第12条) 第3章 要約筆記・点字・音訳の促進(第13条―第15条) 第4章 多様な障害者のコミュニケーション手段の利用促進(第16条) 第5章 明石市手話言語等コミュニケーション施策推進協議会(第17条) 附則 手話は言語である すべての人は、さまざまな人と出会い、言葉を交わし、自分の生活にかかわる人との多様な関係をつくる中で、その人らしい豊かな生活をおくる権利を有している。しかし、現実には、多くの障害者にあってはコミュニケーション手段の選択の機会が制限され、困難な状態におかれている。 中でも、ろう者にあっては、ろう教育において口話法が長年にわたって行われ、その結果、ろう者の言語である手話の使用が事実上禁止され、ろう者の尊厳が深く傷つけられた歴史をもつ。 平成18年に国際連合で採択され、平成26年1月に日本が批准したことにより、同年2月に日本国内で発効された障害者の権利に関する条約は、定義において、言語には、音声言語だけではなく、「手話その他の形態の非音声言語」が含まれるとした。 同条約で手話が言語として明確に定められたことで、手話がろう者にとって欠かすことができない生活上のコミュニケーション手段であることが国内外で認められることになった。 多様なコミュニケーション手段の促進のために 障害者の権利に関する条約は、コミュニケーション手段には手話を含む言語、文字の表示、点字、音声、触覚、平易な表現等による多様なコミュニケーション手段があるとし、同条約の趣旨を反映した障害者基本法の改正は、コミュニケーション手段の選択と利用の機会が確保されていない障害者に大きな変化をもたらし、自立と社会参加に大きな扉を開くものとなった。 その一方で、明石市において、実際には障害の特性や障害者のニーズに応じたコミュニケーション手段の選択と利用の機会が十分に確保されているとは言えず、地域社会で暮らす人と人との初歩的な関係づくりに日常的な困難をきたしている人たちが少なくない。こうした障害者のコミュニケーションの権利を実現するためには、障害者の権利に関する条約の理念を広く市民と共有する不断の努力が必要である。 多様な人と人との出会いと相互理解の第一歩がコミュニケーションであることをすべての市民が確認し合い、そのことをもって、お互いに一人ひとりの尊厳を大切にしあう共生のまち−明石市づくりを推進する新しいスタートラインとするため、この条例を制定する。 第1章 総則  (目的) 第1条 この条例は、手話等コミュニケーション手段についての基本理念を定め、市の責務並びに市民及び事業者の役割を明らかにし、総合的かつ計画的な施策を推進することにより、障害のある人がその障害特性に応じたコミュニケーション手段を利用しやすい環境を構築し、もって障害のある人もない人も分け隔てられることなく理解しあい、お互いに一人ひとりの尊厳を大切にして安心して暮らすことができる地域社会を実現することを目的とする。 (基本理念) 第2条 すべての手話等コミュニケーション手段の選択と利用の機会の確保は、障害のある人とない人とが相互の違いを理解し、その個性と人格とを互いに尊重することを基本として行われなければならない。 2 手話等コミュニケーション手段を利用する人(以下「利用者」という。)が有している、障害の特性(以下「障害特性」という。)に応じてコミュニケーションを円滑に図る権利は、最大限尊重されなければならない。 3 手話の普及は、手話が独自の言語体系と歴史的背景を有する文化的所産であると理解されることを基本として行われなければならない。  (定義) 第3条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。 (1) 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)、難治性疾患その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により、継続的又は断続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。 (2) ろう者 手話を言語として日常生活又は社会生活を営む者をいう。 (3) 社会的障壁 障害者が日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。 (4) 手話等コミュニケーション手段 独自言語としての手話、要約筆記等の文字の表示、点字、音訳、平易な表現、代筆及び代読その他日常生活又は社会参加を行う場合に必要とされる補助的及び代替的な手段としての情報及びコミュニケーション支援用具等をいう。 (5) 合理的な配慮 障害者が日常生活又は社会生活において、障害のない人と同等の権利を行使するため、必要かつ適切な現状の変更及び調整等を行うことをいう。 (6) コミュニケーション支援従事者等 手話通訳士・者、要約筆記者、点訳者、音訳者(朗読者を含む。)及び盲ろう者向け通訳・介助者並びに知的障害者又は発達障害者等への伝達補助等を行う支援従事者等をいう。  (市の責務) 第4条 市は、基本理念にのっとり、次に掲げる施策を推進するものとする。  (1) 公的機関及び事業者が合理的な配慮を行うことができるよう支援すること。 (2) 障害者、コミュニケーション支援従事者等、公的機関及び事業者の協力を得て、手話等コミュニケーション手段の意義及び基本理念に対する市民の理解を深めるための取組を行うこと。 (3) 障害者が地域社会において手話等コミュニケーション手段を利用することができる環境の整備を促進すること。 (4) 利用者、コミュニケーション支援従事者等その他の関係者が、手話等コミュニケーション手段を利用できるようにするために行う調査及び研究並びにその成果の普及に協力すること。  (市民の役割) 第5条 市民は、基本理念に対する理解を深め、手話等コミュニケーション手段の普及及び利用の促進に係る市の施策に協力するよう努めるものとする。  (事業者の役割) 第6条 事業者は、基本理念に対する理解を深め、手話等コミュニケーション手段の普及及び利用の促進に係る市の施策に協力するよう努めるとともに、コミュニケーション支援従事者等と連携し、障害者が手話等コミュニケーション手段を利用できるようにするための合理的な配慮を行うよう努めるものとする。 (施策の策定方針) 第7条 市長は、手話等コミュニケーション手段の普及及び利用の促進を図るため、次に掲げる施策を策定するものとする。 (1) 手話等コミュニケーション手段に関する必要な情報提供その他の手話等コミュニケーション手段を容易に利用できるようにするための環境整備に関する施策 (2) コミュニケーション支援従事者等の配置の拡充及び処遇の改善その他のコミュニケーション支援従事者等の確保に関する施策 (3) その他手話等コミュニケーション手段の普及及び利用の促進に関する施策 2 市長は、前項に規定する施策を策定する場合においては、明石市手話言語等コミュニケーション施策推進協議会(以下「協議会」という。)の意見を聴き、その意見を尊重するものとする。 3 市長は、第1項の規定による施策を策定した場合は、当該施策を明石市障害者計画(障害者基本法(昭和45年法律第84号)第11条第3項の規定に基づき策定された計画をいう。)に位置付け、総合的かつ計画的に推進するものとする。  (財政上の措置) 第8条 市は、手話等コミュニケーション手段に関する施策を推進するため、予算の範囲内において、必要な財政上の措置を講ずるものとする。    第2章 手話言語の確立  (手話を学ぶ機会の提供) 第9条 市は、ろう者、手話通訳者、公的機関及び事業者と協力して、市民に手話を学ぶ機会を提供するものとする。 2 市は、公的機関及び事業者が手話に関する学習会等を開催する場合において、当該学習会等を支援するものとする。 (手話を用いた情報発信等) 第10条 市は、ろう者が市政に関する情報を速やかに得ることができるよう、手話を用いた情報発信を推進するものとする。 2 市長は、市が主催する講演会等に手話通訳者を配置するものとする。 3 市長は、地方独立行政法人明石市立市民病院その他の市長が適当と認める団体が主催する講演会等に手話通訳者を派遣するものとする。 4 市長は、ろう者が手話を身近に使うことができる環境及び手話による情報を入手することができる環境を整備するため、手話通訳者の派遣及びろう者に対する相談支援活動の支援等を行うものとする。 (手話通訳者等の確保及び養成) 第11条 市は、ろう者が地域社会において安心して生活できるよう、関係機関と協力し、手話を使うことができる者及びその指導者の確保及び養成を行うものとする。  (学校における手話の普及) 第12条 市は、学校において、ろう児童生徒が手話で学ぶことができるよう、必要な措置を講ずるよう努めるものとする。 2 市は、市民が手話に関する理解を深めるため、学校教育における手話の普及啓発を行うものとする。    第3章 要約筆記・点字・音訳の促進  (要約筆記等を学ぶ機会の提供) 第13条 市は、手話等コミュニケーション手段のうち、要約筆記、点字又は音訳(以下「要約筆記等」という。)を必要とする障害者、コミュニケーション支援従事者等、公的機関及び事業者と協力し、市民に要約筆記等を学ぶ機会を提供するものとする。  (要約筆記等を利用するための環境整備) 第14条 市は、障害者が要約筆記等を身近に使うことができる環境及び要約筆記等による情報を入手することができる環境を整備するため、次に掲げる事項についての取組を推進するものとする。 (1) 要約筆記等に係るコミュニケーション支援従事者等の派遣及び要約筆記等による情報の利用に関する相談支援活動の支援等 (2) 市が主催する講演会等における要約筆記者の配置 (3) 地方独立行政法人明石市立市民病院その他の市長が適当と認める団体が主催する講演会等への要約筆記者の派遣 (4) 市の広報活動及び公的機関が障害者に送付する文書通知等における点字サービス及び音訳サービスの提供 (5) その他要約筆記等を利用できるようにするための環境整備に必要な事項  (要約筆記者等の確保及び養成) 第15条 市は、要約筆記等の手話等コミュニケーション手段を利用する障害者が地域社会において安心して生活できるよう、関係機関と協力し、要約筆記者、点訳者及び音訳者の確保及び養成を行うものとする。    第4章 多様な障害者のコミュニケーション手段の利用促進  (多様な障害者のコミュニケーション手段に対する支援及び配慮) 第16条 市は、日常生活又は社会生活において、障害特性に応じたコミュニケーション手段が障害者の年齢及び障害の種別又は状態等に応じてきわめて多様であることに鑑み、手話及び要約筆記等以外の手話等コミュニケーション手段について、利用の促進に関する施策を推進するものとする。 2 市は、触手話、指点字その他の盲ろう者のコミュニケーション手段を利用する場合に必要となるコミュニケーション支援従事者等の確保及び養成を行うものとする。 3 市は、次に掲げる手話等コミュニケーション手段の利用について支援を行うとともに、これらに対する市民の理解を促進するための取組を行うものとする。 (1) 知的障害及び発達障害の特性を踏まえた、平易な表現によるわかりやすい情報伝達及び絵図、写真、記号、サイン、ジェスチャー等によるコミュケーション手段 (2) 代用音声(喉頭摘出等により使用するものをいう。)及び重度障害者用意思伝達装置等(重度の両上下肢障害及び音声・言語機能障害により使用するものであって、まばたき等により操作するものをいう。)によるコミュニケーション手段 (3) その他障害者のコミュニケーション手段として必要な手段    第5章 明石市手話言語等コミュニケーション施策推進協議会  (明石市手話言語等コミュニケーション施策推進協議会) 第17条 手話等コミュニケーション手段の普及及び利用の促進に関する施策について協議するため、協議会を置く。 2 協議会は、第7条第1項に規定する施策の策定について意見を求められた事項について、市長に意見を述べる。 3 前項に定めるもののほか、協議会は、この条例の施行に関する重要事項について、市長に意見を述べることができる。 4 協議会の委員は、次に掲げる者のうちから市長が委嘱する。 (1) 障害者 (2) コミュニケーション支援従事者等 (3) 手話等コミュニケーション手段について優れた識見を有する者 (4) 公募による市民 (5) その他市長が特に必要と認める者 5 前各項に定めるもののほか、協議会の組織及び運営に関し必要な事項は、規則で定める。 附 則  この条例は、平成27年4月1日から施行する。